325話 強襲
「……ないな」
展望台に続く階段をゆっくりと引き返しているのだけど、財布は見つからない。
すでに半分くらいは探した。
さらに下を探してみるか。
それとも、誰かに拾われたと考えて諦めるか。
「たぶん、後者の方が可能性が高いよな」
善意のある人が拾ってくれれば、聖堂の管理人に届けられているかもしれない。
帰りに確かめてみよう。
そのままネコババされている可能性もあるが……
その時は仕方ない、諦めよう。
小銭入れだから、そこまでの被害はない。
小銭入れそのものも思い入れのある品ではないし、高いものでもないからな。
「みんなのところへ戻るか」
合流するため階段を登り……
「……なんだ?」
ほどなくして違和感に気がついた。
展望台の方がやけに騒がしい。
なにやら悲鳴のようなものが聞こえてくる。
それと……戦闘音。
「いったい、なにが……!?」
慌てて階段を登り、展望台に近づいていく。
しかし、そのまま中へ踏み込むようなことはしない。
手前で止まり、展望台の様子を外から窺う。
展望台の視界が大きく確保されていることが幸いした。
階段からでも中の様子をある程度判別することができる。
「あれは……」
まず最初に映ったのは、両手を上げて抵抗の意思がないことを示している生徒たち。
その中にはグランやジニーたちもいた。
そんな彼らを武器で脅しているのは、全身を武装で固めた男たちだ。
数は、少なくとも十名以上。
素早く的確な動きで制圧をする。
傭兵か。
あるいは暗殺者か。
そのどちらかはわからないが、その道のプロであることが伺えた。
「なんだ、なにが起きている……?」
傭兵と戦おうとする生徒たちもいるが、次々と制圧されてしまう。
そして、人質に取られてしまい……
他の生徒たちの動きが封じられる。
なんていう悪循環。
展望台は完全に制圧されてはいないようだけど、これじゃあ時間の問題だ。
「ユスティーナたちは……いた!」
展望台の奥に姿が見えた。
みんな一箇所にまとめられて、後ろ手に拘束されている。
グランやテオドールはいくらか殴られた跡が見えた。
抵抗したのだろうが……
おそらく、他の生徒たちを人質にとられ、制圧されてしまったのだろう。
でなければ、ユスティーナが負けるわけがない。
「これは……テロ、なのか?」
連中の正体は?
その目的は?
どうしてここが狙われた?
色々な疑問が頭をよぎるものの、深く考えている時間はない。
テロリストの一部がこちらに向かってくるのが見えた。
このままだと俺も捕まってしまう。
一人でなにができるかわからないが……
それでも、連中に捕まるよりはマシだ。
なにかしら打開策を見つけられるかもしれない。
俺は今来た道を引き返すが……
「っ!?」
階段を上がる音が近づいてきた。
意図しての行動ではないと思うが、挟み撃ちに。
どうする? どうすればいい?
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