322話 神の願い
「こんなことを考えるのは、ククルからしたら罰当たりなのかもしれないが……」
ふと思う。
「神はなにを考えているんだろうな?」
「と、いいますと?」
「とんでもない力を持ち……それこそ、竜を上回る力を持っている。そして、対価なしにその力を使い、人を助けてくれる。だからこそ神と呼ばれ、崇められるのだろうけど……どうしてそんなことをするのか、よくわからなくて」
そんなことを考えるのは、俺が俗物だからかもしれない。
なにかしら利益を得るには、必ず対価が必要となる。
そのもっとも簡単な縮図は、買い物だ。
物を得るために金を払う。
それは当たり前のことで、誰もが持っている共通認識。
しかし、神ともなればその枠に囚われないのかもしれない。
無償で奉仕をすることが当たり前なのかもしれない。
ただ、そこになぜ? と理由を求めてしまう。
考えずにはいられない。
「そう、ですね……アルト殿の疑問は、もっともだと思います」
意外なことにククルが賛同した。
敬遠な信者でもあり聖騎士でもある彼女なら、そのようなことを考えるのは不敬であります、と言うかと思っていた。
「普通は、なにかしら物事を成す時は対価が発生します。商売なんてそのもっともたる例ですし、祈りを捧げる時も対価を払っています」
「そうなのか?」
「はい。こう言ってしまうと身も蓋もないのですが……心の安寧を得るために、神へ祈りという対価を捧げているのであります」
「なるほど、そう言われてみるとそうなるか」
祈りという実態のないものではあるが……
確かに、それは対価となりえる。
「神が実在するのは、歴史が証明しているのであります。その神に捧げる祈りは本物なので、対価として認められるのではないかと」
「そうだな。そして、そんな風に全ての物事には対価を払わないといけない」
家族を助けるのにも対価を払っている。
恋人と触れ合うのに対価が必要となる。
そんなことを言っているようなものなので、聞く人が聞けば猛反発するだろう。
とはいえ、これは極論。
結果的に対価が発生しているのであって、意識的にそれを求めている人は少ないはずだ。
話が逸れた。
「対価を払わないといけない、受け取らないといけない。それなのに、神はそんな様子がない。それはなぜなんだろうな、って」
「……正直なところ、自分にはわからないのであります。神の考えは遠く、聖騎士となった今でも難しいのであります」
「そっか、ククルもわからないか」
「ただ、自分の勝手な考えではありますが……もしかしたら、神は対価を受け取っているのかもしれません」
神の対価。
それは……人々の祈りだろうか?
「自分たちの祈りが神の糧となる。そうだとしたら、納得ではありますが……」
「そうなると、ちょっとおかしなことになるよな」
「はい」
ククルの推理が正しいとしたら……
神が最初に現れた時。
なぜ人を助けたのか? という点が疑問だ。
その時点では、神は存在を知られていない。
信仰の対象となっていない。
なので、祈りを捧げられることはなく、対価を得ることはできない。
後々で祈りを捧げてもらうための先行投資と考えられなくもないが……
そうなると、途端に人間臭くなる。
「自分で振っておいてなんだが、難しい話題だな」
「はい、知恵熱が出てしまいそうなのであります」
共に苦笑する。
「ただ……自分は、もう一つの可能性を考えているのであります」
「それは?」
「神は、子供のような存在ではないかと」
子供は見返りを求めない。
対価なんて考えることはなくて、自分のやりたいようにするだけだ。
神も同じような存在だとしたら?
ただ助けたいから人を助けているだけ。
その深い理由はなにもない。
それがククルのもう一つの考えだった。
「子供のような無邪気な存在……か」
「信者に話したら、怒られてしまいそうな考えではありますが」
「いや。案外、それが一番近いのかもしれないな」
子供のような神。
それが正しいとしたら……
子供が持つ独特の残酷さも持っているのだろうか?
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