316話 状況は変わらず
宿に戻り、まずは一日の疲れを風呂に入ることで癒やした。
それから食事の時間。
フィリアでしか取れない素材が使われた、郷土料理がメインだ。
素材の味が良く、さらに調理方法も上手なため、ついついおかわりをしてしまうほどにおいしい。
その後は、自由時間だ。
就寝時間までの二時間、自由にしていいのだけど……
「……」
俺はなにをするわけでもなく、部屋に設置されているバルコニーに出て、夜空を見上げていた。
修学旅行、二日目が終わろうとしていた。
馬車の暴走事件が起きて……
そして、ククルの話。
俺が狙われているといっても、ピンと来ない。
正直なところ、なにかの間違いでは? と思う。
ただ……
なにか嫌な感じがした。
どこがどうと、具体的な言葉にすることはできない。
ただ、見えないところでうごめいている悪意を感じ取っているような……
そんな嫌な感覚。
「誰なのか知らないが……まったく、旅行中に事件を起こさなくてもいいだろうに」
せっかくの修学旅行だ。
みんなと……そして、ユスティーナとたくさんの思い出を作りたいと思っていたのだけど、それが邪魔されてしまうかもしれない。
「アルト」
振り返ると、ユスティーナがいた。
夜空に負けないくらい鮮やかな髪が風に揺れている。
それを手でそっと押さえつつ、俺の隣に並んだ。
「もう、気がついたらどこかに行っているんだもん。探したよ?」
「すまない。少し、夜風を浴びたくて」
「その気持ちはわかるかも。フィリアの夜風って、ちょっと冷たいけど、でも気持ちいいよね」
山岳部にある国だからか、フィリアの風は冷たい。
ただ、その分自然の香りがいっぱい詰め込まれていて、こうして浴びているとリフレッシュできるような気がした。
「えへへー」
ふと、ユスティーナが寄りかかってきた。
俺の肩に頭を乗せるようにして、ぴたりとくっついてくる。
彼女は竜なのだけど、でも、どことなく猫を連想した。
「どうしたんだ?」
「んー、こうしたい気分なの。ダメ?」
「ダメじゃないさ。俺も、こうしたい」
「ひゃっ」
ユスティーナの肩に手を回した。
途端にユスティーナの顔が赤くなる。
それと、動きもぎこちなくなる。
「あわわわ……」
「どうして、ユスティーナの方が照れているんだ? 仕掛けてきたのは、そっちだろう?」
「そ、そうだけどぉ……でもでも、あのアルトがこんなにも積極的になるなんて、思ってもいなかったから」
「それは……まあ、そうかもしれないな」
俺も、自分で驚きだ。
好きな女性に触れたいなんて、以前はまるで思わなかったのだけど……
ユスティーナに対する想いを自覚して以来、どんどんあふれてきている。
恋は人を変えるというが、まさに、その通りなのだろう。
「どうしたの、アルト?」
「いや、なんでも」
ふと、思う。
恋が人を変えるのなら、竜も変えるのだろうか?
ユスティーナは、出会った時から、ほぼほぼこのような状態だったが……
彼女の中で、なにか変化はあったのだろうか?
あるいは、変化があるとしたら、これからなのだろうか?
想いを寄せるだけの状態から、相思相愛へ。
恋人に進展した。
色々な想いの変化があるだろう。
色々な関係の変化があるだろう。
その果てに、大きく変わるものがあるだろう。
それはなんなのか?
今はまだ、なにもわからない。
「星、綺麗だな」
「うん」
この平穏をじっくりと味わいつつ、ユスティーナと一緒に星空を眺めた。
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