313話 スッキリとしない
「あー、楽しかった」
「はい、そうですね♪」
ジニーが満足そうに言うと、アレクシアがそれに追従した。
陽が傾いて、街全体が赤く輝いていた。
そんな中、俺たちは宿に向けて帰路を辿っていた。
あれから、さらにいくつかの施設を見て回り……
女性陣は大満足の様子だ。
それは男性陣も同じで、グランもテオドールも、そして俺も笑みを浮かべていた。
とても楽しい時間だった。
こうして終わってしまうのが、すごくもったいないと思うくらい、良い思い出を作ることができたと思う。
ただ……
「……んー」
少し離れたところを歩くククルは、微妙な顔をしていた。
なにやら、考え事をしているというか、上の空というか……
笑顔はなく、難しい顔をしている。
「ククル、どうしたんだ?」
「……」
ククルの様子が気になり、声をかけてみるのだけど、返事がない。
無視されているわけではなくて、ただ単に、考え事に夢中で気がついていないみたいだ。
目の前で手をひらひらとさせるものの、やはり気が付かない。
考え事に夢中になるあまり、前すら見ていないようだ。
普通、そんなことをすれば転びそうなものだけど、そこは聖騎士。
無意識でもまっすぐと歩くことができるらしく、その足運びに危ういところはない。
「ククル」
「ひゃっ」
ぽん、と肩に手を置くと、さすがに気がついた様子で、ククルが声をひっくり返した。
驚いた様子でこちらを見る。
「あ、アルト殿……?」
「悪い。声をかけたんだが、気がついてくれなくて」
「そ、そうだったのですか。申しわけないのであります、考え事をしていまして……」
「なにか悩み事か? 俺でよければ、相談に乗るが」
「悩み事といいますか、不安事といいますか……」
迷うような間。
ややあって、ククルは口を開く。
「そうでありますね。もしかしたら、アルト殿にも関係しているかもしれない事。ここは、しっかりと話しておくのであります」
「俺に?」
俺に関係するかもしれない話というのは、いったい、なんだろう?
少し考えてみるものの、まったく心当たりはない。
「これは、まだ不確定な要素なので、みなさんにはもちろん、エルトセルク殿にも秘密にしておいてほしいのです」
「ユスティーナにも? それは……」
「お願いするのであります。いざという時は、話をするべきだとは思いますが、今の段階だと、色々と困ってしまうのです」
「……とりあえず、話を聞かせてくれ」
「はい。実は……アルト殿は、狙われているかもしれないのであります」
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
俺が狙われている?
まさか。
ついつい笑ってしまいそうになるが、しかし、ククルの顔は真剣だ。
俺も考えを改めて、真面目に話を聞くことにする。
「それは、どういうことだ?」
「まだ不確定要素が多く、絶対に、と言うことはできないのであります。ただ、自分の組織……聖騎士団の予測によると、アルト殿が狙われている可能性が高い、と」
「しかし、いきなりそんなことを言われても……」
「昼の、馬車の暴走事件」
「……」
「あれは、ただの事故に見えるのですが、見方を一つ変えれば、アルト殿を狙っているようにも見えました。事故に見せかけて……という」
「それは……」
考えすぎと笑い飛ばしたいが、できない。
確かに、今考えてみると不自然な点が多い。
「なぜ、俺が狙われるんだ?」
「それは……申しわけありません。自分たちも確証は得られていないので、なんとも……」
その言葉にウソはないらしく、ククルはとても申しわけなさそうにした。
彼女のせいではないだろうから、そこは気にしないでほしい。
「ただ、その可能性もあるということで、アルト殿には気をつけていただきたいのであります。せっかくの修学旅行で、こんなことを言いたくはないのですが……」
「いや、聞かせてくれてありがとう。修学旅行は楽しみたいが、ただ、本当に狙われているとしたら一大事だからな。知っておくと知らないのとでは、事前の覚悟も違うし、いざという時、咄嗟に反応できなくなるかもしれない。だから、ありがとう」
「いえ。自分は、アルト殿の警護などの任務を受けています。なにかありましたら、すぐに自分に相談してください」
「わかった、頼りにしているよ」
「はいであります!」
ただの修学旅行のはずが、思わぬ方向に事態が流れ始めている。
なにか嫌な予感がした。
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