312話 気のせい?
「お、おまたせしたのであります!」
着替えを終えたククル。
その時間は、わずか十分。
俺達を待たせたらいけないと、高速着替えを披露したようだけど……
そんな技術、どこで身につけたのだろう?
他の聖騎士も、同じことができるのだろうか?
どうでもいいことが気になりつつ、次の観光地へ向かう。
トラブルはあったものの、引きずることなく、修学旅行を楽しみたいと思う。
今日は、残り二箇所の観光地を巡る予定だ。
遅くなってしまったけれど、ククルも合流することができて、全員が揃った。
楽しい思い出を作れれば、と思う。
「こほん」
私服に着替えたククルが先頭を歩く。
とある地点で足を止めて、くるりと振り返った。
「こちらが、フィリアだけに生息する動物と遊ぶことができる、ふれあいパークなのであります」
「「「わぁー♪」」」
もふもふの動物たちを見て、女性陣が歓声をあげた。
目がハートマークになっていて、かなり興奮しているようだけど、その気持ちはわからないでもない。
小さな柵の中で、小さな狼が駆けていた。
見た目は狼とまったく変わらないのだけど、サイズはかなり小さい。
文字通り、手の平サイズだ。
かっこよくもあり、かわいくもあり……
俺を含めて、全員の心が鷲掴みにされてしまう。
「ね、ねえねえ、この子たちに触れるの!?」
ユスティーナが興奮気味にククルに尋ねた。
「はい、大丈夫でありますよ。ただ、優しくしてほしいのであります。この子たちは勇敢な心を持ちますが、悪意などには非常に敏感なので」
「う、うん! 優しく優しく……ふわぁあああああ」
ユスティーナがそっと手を差し出すと、向こうの方から寄ってきて、その手をぺろぺろと舐めた。
ものすごく感動しているらしく、おかしな声がこぼれている。
「うわー、すっごいかわいい!」
「ふふ、いい子ですね」
ジニーとアレクシアも、笑顔がたくさんあふれていた。
そして、グランとテオドールも小さな狼を手であやして、夢中になってかわいがっている。
世界最強なのは、かわいい存在なのでは?
そんなことを思う光景だった。
「むう……」
ただ、クーフェリアは苦戦した様子だった。
手を差し出しても、向こうから近づいてくる様子はない。
むしろ、逃げられてしまっている。
「な、なぜだ……なぜ私だけ……」
「力みすぎじゃないか?」
「なんだって?」
「こんなことを言うのはなんだが……今のクーフェリアは、少し怖いぞ?」
「む?」
ク―フェリアは、自分の顔を触る。
しかし、よくわからないらしく、むにむにと頬を動かしていた。
「私は今、怖い顔をしているのか?」
「怖いというか……興奮しすぎだな」
この子たちのかわいさにやられてしまったのだろう。
はぁはぁと吐息は荒く、目はギラリと光り……
ひどい感想ではあるが、不審者そのものだ。
この子たちがかわいいのはわかるのだけど、もう少し落ち着いてほしい。
「そんなに興奮していたら、怯えてしまうだろう?」
「そ、そうなのか……? 私は、そんなにも挙動不審になっているのか……?」
「あー……まあ、そうだな。なっている」
「っ……?!」
ものすごくショックを受けた様子で、クーフェリアは白目を剥いた。
だから、そういう反応が怖いのだが……
「大丈夫か?」
「……だ、大丈夫だ。小動物に好かれないくらいで、これくらいで……ぐすん」
ものすごく気にしていた。
さすがにかわいそうだ。
「えっと……ククル、なんとかならないか?」
「えっ、自分でありますか!? えっと、えっと……ごにょごにょ」
ククルが飼育員に耳打ちをして……
そして、飼育員が一匹の小さな狼に触れて、ク―フェリアのところまで誘導した。
「はぁあああああ……」
小さな狼はとても嫌そうにしていたが、それでも、クーフェリアは大満足らしく、天に登るような笑みを浮かべていた。
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