表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/459

310話 参上

「まずい!?」


 この勢いだと、三十秒もしないうちに崖に達してしまう。


 崖の手前には柵が設置されているものの、暴走する馬車の突撃に耐えられるような設計になっているとは思えない。

 このままだと柵を突き破り、一緒に落下してしまうだろう。


 どうにかして止めないといけないのだけど、人を巻き込まないように、進路を微調整することで精一杯だ。

 それ以上は難しい。


 やはり、強引に止めるしかないか……?


「あれは……!?」


 道の先に人影が見えた。

 こちらに気がついていないのだろうか?

 逃げる様子はない。


「そこにいたら危ない! 早く……」


 逃げろ、と言おうとして、ふと気がついた。


 人影……彼女について、俺は、とてもよく知っていることを。

 人影の正体は……


「ククル!?」


 背中に大剣。

 白く輝く鎧に身を包み、完全武装のククルが仁王立ちしていた。


「……」


 驚くこちらをよそに、ククルは無言で背中の大剣を抜いた。

 両手でしっかりと握り、刃を前に構える。


 まさか……

 これ以上の被害を出さないために、馬を斬るつもりか!?


 そんなことをするくらいなら、イチかバチか、強引に馬を止めてしまった方がまだ……いや。

 ククルは優しい女の子だ。

 聖騎士で、国と民の安全を第一に考えないといけない立場だとしても……

 それでも、救える命を見捨てるようなことは絶対にしない。


 どうしても、やむを得ない時ならば、非情になって刃を振るうこともあるだろう。

 でも、今はまだ、その時じゃない。


 俺は、ククルを信じて、全て彼女に任せることにした。

 もちろん、万が一に備えて、いつでも動けるように体勢は整えておくが。


「すぅ……」


 遠目だけど、ククルが呼吸を整えるのが見えた。

 心を整えて、力を練り上げていくのがわかる。


 大剣を掲げ、


「はぁっ!!!」


 馬車との距離がまだ大きく開いているにも関わらず、ククルは大剣を振り下ろした。


 ゴォッ!


 大剣が振り下ろされた勢いで、空気が震えて、衝撃波が発生した。

 道にある物を吹き飛ばしつつ、衝撃波がまっすぐに飛ぶ。


「くっ」


 衝撃波に飲み込まれた。

 烈風が体を叩いて、ピシリと肌が切れる。

 まるで、竜巻に襲われたかのようだ。


 一瞬の浮遊感。

 そして短い間だけど、上下左右の感覚が失われる。


「!!!?」


 そんな状況に馬が耐えられるわけがなくて、バランスを崩した。

 四本の足をもつれさせるようにして、急激に速度が落ちていく。


 ともすれば転倒してしまいそうだけど、そこは運が良かったのだろう。

 最後まで転倒することはなくて……

 崖の手前で、馬は足を止めた。


 このチャンスを見逃すわけにはいかない。

 俺はすぐに馬から降りて、まずは馬車との連結を解除した。

 それから、近くの家からロープを借りて、馬と木を結ぶ。


「ふう……これで、なんとかなったか」


 危ういところではあったが、なんとか馬も助かった。

 まだ興奮状態が続いているが、後は、この国の騎士団に任せよう。


「アルト殿!」


 ククルがこちらに駆けてきた。

 とても申しわけなさそうな顔をして、頭を下げる。


「申しわけないのであります! あんな強引な方法をとって……でもあれは、アルト殿なら大丈夫だという確信というか、信頼というか……」

「ククル」

「はい……?」

「ナイスだ」

「……はい!」


 どこかほっとした様子を見せつつ、ククルはにっこりと笑うのだった。

『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、

ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ