31話 黒幕を突き止めろ
ジャスに打ち勝ち、今度こそ、完全に過去を振り払うことができた。
もしもジャスとの決闘がなければ?
俺は、いつまでもユスティーナに頼り切りであり、一人で立ち上がることができなかったかもしれない。
それを考えると、ある意味では、ジャスに感謝してもいいかもしれない。
グランとジニーも無事に帰ってきた。
ユスティーナも後始末を終えて戻ってきた。
これで万事解決。
めでたしめでたし。
……ならばいいのだけど、現実はそうはいかない。
「黒いローブを着た男?」
放課後。
俺、グラン、ジニーは人気のない空き教室に集められた。
そこで、後始末をして戻ってきたユスティーナが、そんな情報をもたらしてくれた。
「うん。どうも、ラクスティンは黒いローブを着た男にそそのかされたみたいなんだよね。アルトをいじめることができる良い方法がありますよー、って」
「そういえば……俺らが誘拐された時、そんなヤツが現場にいたような気がする」
「それと、私たちをさらった実行犯って、結局、捕まっていないし……誰なのかしら? もしかして、その黒いローブの男の手先とか?」
「うーん、どうなんだろう?」
ユスティーナたちが首を傾げる。
色々と話し合っているものの、なかなか答えが見つからないみたいだ。
そんな中、俺はとある可能性に辿り着いていた。
「……カルト集団」
「ん? なんだ、それ?」
「以前、朝の授業の前に先生が言っていただろう? 竜を排除しようとするカルト集団がいるとかいないとか」
「そんな話、してたか……?」
「うーん、うっすらと覚えがあるような……? でも、ただの噂じゃないの?」
「その後、街の人からもそういう連中がいた、っていう話を聞いたことがあるんだ」
「それは……」
「で……極めつけは、ユスティーナが聞き出した黒いローブの男。この前、それらしい人影を平原で見た」
一つ一つは取るに足らない話で、気にしたことはなかった。
しかし、こうして全部が揃うと無視することはできない。
限りなく怪しい。
「アルト、どうするの?」
「放っておくことはできない。ジャスをそそのかしたように、また同じことをしないとも限らないし……その目的が竜の排除っていうのなら、それは絶対に阻止しないと」
「うんっ、さすがアルト! そう言ってくれると思っていたよ」
「俺も協力するぜ」
「もちろん、私も」
「よし……行こう、みんなで」
――――――――――
グランとジニーの実家は商店を営んでいるらしく、外の人と取引を行うことが多い。
その伝手で、平原に潜む怪しい連中についての詳細な情報を手に入れることができた。
街の反対側……平原の奥に進み、森の境目辺りに朽ち果てた教会があるらしい。
そこで黒いローブの者を見たという目撃情報があった。
騎士団に通報するという手も考えたが、今はただ、怪しいという推測だけで証拠というものはなにもない。
まずは俺たちで確かめることにして、現地に足を運んだ。
「あそこか……」
グランとジニーの情報通りに、平原をしばらく歩いていくと、朽ち果てた教会があった。
窓ガラスはほぼほぼ割れて、壁と天井に穴が空いている。
今すぐに崩れ落ちてしまいそうだ。
「……ねえ、アルト」
「……ああ、いるな」
念の為に声を潜める。
ユスティーナの言う通り、壁に空いた穴から教会の中に人影があることを確認した。
一人ではなくて複数。
ただ、見た目は普通の人と変わらない。
黒いローブの男はいないか、あるいは、奥に隠れているみたいだ。
グランとジニーがこちらを見る。
「どうする? こんなところに集まってるのは無茶苦茶怪しいが……でも、怪しい儀式をしてるとか、そういう感じはしねえぞ?」
「わかりやすく、ニワトリの首を斬って血を浴びて笑っているとか、そういうことをしててくれたらいいのに」
「おま……怖いこと言うなよ」
「それくらいわかりやすいことをしてくれ、っていうことよ。実際に、そんな光景が見たいわけじゃないからね」
「……もう少し様子を見よう」
カルト集団なのか、そうではないのか。
今のところ判断がつかない。
まあ、結界の外に出て、コソコソと集まっている時点で怪しいのは確定なのだが……
だからといって、いきなり攻撃をしかけるわけには……
「うーん、まどろっこしいなあ……ボク、行ってくるね」
「え?」
止める間もなく、ユスティーナが前に出てしまう。
そのまま教会の扉を開けて、中に入っていった。
「おいっ、ユスティーナ!?」
俺たちは慌てて後を追いかけて、教会の中に突入した。
「これは……」
「アルトたちも来たの? ボクに任せてくれてよかったのに」
教会の中央にユスティーナが立ち、その周りに人々が転がっていた。
意識はあるらしくうめいているが、立ち上がることはできないらしい。
「どうしたんだ、これは……?」
「いきなり襲いかかってきたから、ちょっと撫でてあげたんだ。問答無用だったから、これ、正当防衛だよね?」
過剰防衛な気はするが……
ただ、この人たちがなにか後ろめたいものを抱えていることは間違いないだろう。
できることなら、じっくりと証拠を探したいところだけど……
そんな時間もなさそうだ。
そろそろ日が暮れる。
後は通報して、騎士に任せるしかないか。
「なっ、これは……!?」
その時、教会の扉が開いて、新しい人影が現れた。
その人物こそ、俺たちが探していた黒いローブの男だった。
黒いローブの男は教会内の様子を見てすぐに状況を理解したらしく、強い怒気を放つ。
「貴様は竜の王女! どうしてここに……!?」
「ユスティーナを知っているということは……当たりか?」
竜に王女がいるということは知られていても、その王女が人の姿をとり、俺たち人間と一緒に行動しているということはあまり知られていない。
学院関係者ならともかく、そうではない人は、ユスティーナが人に変身した竜であることすら知らない。
そのことを知っているということは、この黒いローブの男は、それなりの知識があるということ。
……竜を排除しようとするカルト集団だとしても、不思議はない。
グランとジニーもその可能性に行き着いたらしく、警戒をあらわにする。
「てめえ、何者だ?」
「ここにいる連中のこと、教えてもらうわよ」
「くっ」
黒いローブの男は逃げ出そうとするが、それを許すほど俺は間抜けじゃない。
床を蹴り、瞬間的に男の背後に回り込む。
そのまま訓練用の槍を背中に突きつけた。
「なっ……いつの間に私の後ろに!?」
「ここ最近、色々と特訓をしているからな。これくらいのことは問題ない。それよりも、お前の素性、目的を話してもらうぞ? こいつは訓練用の槍だが、鉄の塊のようなもので、殴ればかなり痛いぞ」
「貴様……!」
「話してもらうぞ、全部を」
「そうか、貴様がアルト・エステニアか! 竜の王女の寵愛を授かりし者……貴様のような者がいるから、私たちは竜の奴隷から抜け出すことができないのだ!」
「奴隷?」
「そうだ! 連中は……竜は、我々人を支配しようとしている! 緩やかに、真綿で首を締めるように! そのことに誰も気づかない、訴えても誰もが戯言と無視をする! 愚かな連中だ……竜の支配は、すぐそこまで来ているというのに!」
無茶苦茶なことを言う。
竜が人を支配するなんてこと、企んでいるわけがない。
仮に企んでいたとしても、竜ほどの力があれば、そんなものは即座に終わる。
この男のろくでもない妄想にすぎない。
が……竜に対する怒り、憎しみは本物のように見えた。
「なぜ、そこまで竜を敵視する?」
「決まっているだろう! 連中は敵だからだ!」
「そんなわけ……」
「あるんだよ! 連中のせいで私は故郷を失った! 連中がこんな国に協力しているせいで……俺の故郷は!!!」
おそらく、男はアルモートの敵国の者だったのだろう。
アルモートに戦を挑み……
しかし、圧倒的な竜の力の前に敗北して、国を失った。
故郷を失った。
そういう国は、多いわけではないが、少なからず存在する。
「てめえの事情は理解したが……それでどうして、ラクスティンに力を貸した?」
「あんたが裏で色々と動いていたこと、知っているのよ?」
「そこの竜の王女に、自分の無力さを刻み込んでやるためさ!」
グランとジニーに問い詰められた男は、ユスティーナを睨みつけた。
「貴様は、このガキに惚れているらしいな? 色々と力を貸した。しかし、結局、どうすることもできずにガキがどん底に落ちれば……その時は、俺と同じ思いをすることになるのさ! 守りたくても守ることができなかった、自分の無力さを痛感することになるのさ!」
「つまり……それは、ボクに対する嫌がらせ、っていうことかな?」
ユスティーナの言う通り、この男は、たったそれだけのためにジャスを利用して、あれこれと暗躍してきたらしい。
まあ、ユスティーナが傷つけば、竜も態度を変えるかもしれないし……
ある意味で、男の目的は達成されるのかもしれない。
ただ、そんなことはさせない。
「お前は終わりだ。このまま騎士団に突き出す」
「はいそうですか……と、諦めるわけにはいかないのだ! 私は、故郷の全てを背負い、ここに立っているのだ!!!」
一瞬、男の気迫に飲まれてしまう。
その隙をついて、男は懐から手の平サイズのガラスのような球を取り出して、それを地面に叩きつけた。
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