306話 立場を変えると
食事を終えた後、改めて観光を再開した。
午後になればククルが合流できるはずなのだけど、まだ連絡はない。
仕事が長引いているのだろうか?
こちらから連絡したいところだけど、邪魔をしてしまう可能性もあり、もう少し様子を見ることにした。
ひとまず、事前に立てた予定通り、美術館へ向かう。
向かう先は、フィリア一の美術館だ。
フィリアの歴史が収められているだけではなくて、この国で活動するありとあらゆる美術家の作品が収められているのだとか。
芸術に詳しいわけではないが、国一番の美術館と聞けば、少しは心躍る。
入場料を払い、期待して中に入ると……
「「「……」」」
俺を含めて、みんな、無言になる。
ただ、その目はキラキラと輝いていた。
絵画に彫刻。
歴史書。
武具に魔道具……ありとあらゆる美術品が収められていた。
武具や魔道具も美術品になるのだろうか?
そんな疑問を多少は抱いたものの、それはすぐに消える。
展示されているのは、フィリアの歴史と関係している武具と魔道具ばかりだ。
解説もあり、この時代にこの武具や魔道具が開発されて、民の暮らしが改善された。
より良い生活を手に入れることできた。
ただの武具や魔道具ではなくて、歴史がしっかりと記されている。
故に、美術品というカテゴリーに収められているのだろう。
「すごいな……色々な種類があるだけじゃなくて、一つ一つに、全部解説がついているなんて」
「うんうん。作品の力があるから、解説なしでも楽しめるんだけど……でも、解説があることで、より深く理解して楽しめることができるんだよね」
「美術館でありながら、フィリアの歴史を学ぶことができるというのは、すばらしいと思いますわ」
「変に堅苦しくもなくて、逆に開放的で……うん。ここって、子供でも誰でも楽しめそうね」
「私は、そこそこ美術品を見る目はあると自負しているが、これはすごいな。どれもこれも、貴重ですばらしいものばかりだぞ」
女性陣は概ね好評らしく、とても楽しそうにしていた。
一方の男性陣は、
「へえ、コイツがフィリアの昔の武器なのか。見たことのない形をしているし、けっこうおかしな感じだな」
「こちらは、なかなか使い勝手がよさそうだね。今でも十分通用するのではないかな?」
どちらかというと、武具の方を中心に見ていた。
男の血が騒ぐ、というところだろうか?
気持ちはわからないでもないが、ここにあるものはどれもすばらしいから、全部を見た方がいいと思うぞ。
「あうあう」
「うん? どうしたんだ、ノルン」
「あうー!」
ノルンに腕を引かれ、別のコーナーへ。
そこは、竜に関する展示コーナーだった。
フィリアは神を崇めているのだけど、アルモートと国交を結んでいるため、竜との交流がないわけではない。
竜に関する色々な資料が展示されていた。
それらが気になるらしく、ノルンはごきげんな様子で展示物を眺めている。
俺も、一つ一つ、見て回る。
「へえ」
アルモートでは、竜は親愛なる隣人という教えが一般的だけど……
フィリアでは、そうはならないらしい。
高い知性を持ち、その魂は高潔。
この地上でもっとも優れた生物である。
ここまでは同じなのだけど……
長年、生態系の頂点に君臨してきた。
天敵はおらず、種は繁栄を続けるのみ。
故に、危ういところがないわけでもない。
もしも竜が俗物的な野心にとりつかれたのならば、世界は炎に包まれるだろう。
……そんな解説も記載されていた。
アルモートでは、絶対に見られないような解説だ。
竜がそんなことをするなんて思わないが……
ただ、こうして色々な考えを巡らせることは自由であり、どんどんするべきことだと思う。
「当たり前のことだけど、国が違うと、ものを見る視点も変わるんだよな」
アルモートにとって、竜は友達だ。
では、フィリアにとっては?
「……ククルや、この国の人は、竜のことをどう考えているんだろうな?」
ふと、そんなことが気になった。
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