303話 聖騎士の密談
聖国フィリアの王城。
とある一室に、二人の人影があった。
「ククル・ミストレッジ……参りましたのであります」
ククルが膝をついて頭を下げる相手は、アリーゼ・クロノベルト。
聖騎士団長の座についていて、最強の名を誇る女性だ。
「夜分遅く、すみません。本来なら、陽が高いうちにお話をしたかったのですが、どうも、私もあなたも忙しく」
「い、いえ! 団長殿が気にするようなことはでないのであります!」
ククルは緊張していた。
体がガチガチになってしまうほど、ものすごく緊張していた。
目の前にいるのは、フィリア最強の聖騎士。
聖騎士に就任した時、先の密談の時……二回しか顔を合わせたことがない。
ついでに言うと、憧れの存在だ。
国が危機に陥った時、アリーゼは先頭に立って他の聖騎士を導いて、獅子奮迅の活躍を見せた。
国を救ったことは、一度や二度じゃない。
それこそ、数え切れないほどだ。
そんなアリーゼに憧れて、ククルは聖騎士を目指したのだ。
憧れの存在であり、一番偉い上司。
緊張しないわけがない。
「ふふ、そんなに緊張しないでください。私は、聖騎士団長ではありますが、肩書がなくなれば、あなたと同じ一人の女性です」
「そ、そう言われましても……」
「まあ、今は仕事中なので難しいかもしれませんね」
アリーゼは小さく笑いつつ、紅茶を淹れて、ククルに勧めた
ククルはすぐに口をつけて……
心の中で、熱い!? と叫ぶ。
淹れたてなので熱い。
ただ、そこは聖騎士の根性というべきか、悲鳴は我慢した。
そのことに気づいているのかいないのか、アリーゼは話を続ける。
「さて……このような時間に呼び出したのは、他でもありません。竜の王女についての話です」
「そのこと……で、ありますか」
「浮かない顔をしていますね」
「それは……」
「ククルは、彼女と友達なのでしょう? だから、戸惑い、迷っているのでしょう?」
「……はい」
アリーゼに隠し事は通じないと判断したククルは、素直に頷いた。
「エルトセルク殿は、確かに竜であります……しかし、人に害を及ぼすような存在ではないのであります! 自分は、彼女と長い間、一緒にいました。時に、一緒に強敵に立ち向かいました。彼女が人間に害を及ぼすなんて、とても……」
「そのことですが、追加で伝えなければいけないことがあります。そのために、今日はこちらへ来てもらいました」
「もしかして、命令の撤回が……!?」
「いえ、それはありません」
「そうでありますか……」
しょぼん、と落ち込むククル。
アリーゼは妹を見るかのような穏やかな顔をして、ククルを見た。
「今回の命令は、国の上層部によるものです。といっても、政治的な判断が絡んでいるわけではなくて、あくまでも神託が下ったのです」
「女神さまの……で、ありますか」
「はい。アルモートの竜の王女は、将来、人間の最大の脅威になる……と」
「……」
「災いの芽を今のうちに摘み取る。それが、あなたの任務ですが……ここに来て、より詳細な情報がわかりました」
「そ、それはどのような!?」
もしかしたら、なにかの間違いだったのかもしれない。
そんな期待を抱くのだけど、しかし、アリーゼは厳しい顔に。
「竜の王女が災いになるということは、変わりありません」
「そう、なのですか……」
「ただ、条件がつくようです」
「条件?」
「どのような条件なのか、それはまだ判明していないのですが……どうも、竜の王女は、必ず人類の敵になるというわけではなさそうです。なにかしらの条件が揃った時、人類の敵になる……そのようなことが判明いたしました」
「条件……で、ありますか」
ククルは考える。
どのようなことがあれば、ユスティーナは人類の敵になるのだろうか?
元気で明るくて、わりと情に深いところがあって……
そして、アルトのことが大好き。
そんなユスティーナが人類の敵になるとしたら、どんな状況なのだろうか?
以前、ノルンの体が乗っ取られたことがあるが、それと同じようなことが?
いや、それならばユスティーナを敵と言わないだろう。
ならば、いったい……?
ククルは思考をフル回転させて、そして、一つの答えに辿り着いた。
「ひどく嫌な想像ではありますが……もしも、もしも、アルト殿が人間に殺されたとしたら? その時は、エルトセルク殿は怒り狂い、人類の敵となる……?」
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