300話 神
フィリアの先祖は、元々は遊牧民だったらしい。
平地にいると、戦争に巻き込まれたり、盗賊に狙われたりすることが多い。
そのため、あえて生活の場所を山岳地帯へ移動させたという。
その生活の相棒として、馬や羊などをパートナーに選んだ。
そして、季節毎に過ごしやすい場所へ移動して……
遊牧民となったという。
ただ、山岳地帯という険しい場所は、彼らの体力を容赦なく奪う。
病に倒れる者も少なくなかった。
しかし、場所が場所だけにまともな治療はできない。
山岳地帯なので、病に効く薬草は生えていない。
静養しようにも、嵐などを避けるため、定期的に移動しなければいけないため、落ち着いて休むことができない。
追い詰められていく彼らが選んだのは……
神に祈るということだった。
移動中……
ふとしたことで、朽ち果てた祠を見つけたらしい。
見つけた以上、放置することはためらわれる。
遊牧民達は祠を修理して、いくらかのお供え物と祈りを捧げた。
すると、病に倒れていた人たちが次々と回復したのだ。
一人や二人なら、ただの偶然と言えるだろう。
しかし、全員だ。
これはもう奇跡というしかない。
その奇跡を起こしたのは、祠に宿る神に違いない。
そう考えた遊牧民は、旅を止めて、祠を中心に街を築いた。
何度も何度も危険に晒されて。
時に死を覚悟して。
それでも諦めることなく、険しい道を乗り越えて街を作り上げた。
そして、街の象徴となる聖堂を建てた時……本当の奇跡が起きた。
聖堂に神が降臨したのだ。
神は遊牧民たちの祈りを聞いていた。
その献身に感謝をしていた。
故に、彼らを見守ることにした。
神は奇跡を起こして、枯れた大地を、緑あふれる豊穣の大地へと変えた。
それだけではない。
天気さえも操り、穏やかな気候と恵みの雨をもたらした。
神の奇跡を目の当たりにした遊牧民たちは、絶対的な信仰心を宿した。
しかし、神に頼るばかりではいけない、強くならなければいけない。
そのように考えて、自らを鍛えた。
その姿に感銘を受けた神は、恒久的な保護を申し出たという。
以来、街は発展を続けて……
神と同じ名前、『フィリア』という名前の国になった。
――――――――――
「……というのが、フィリアの成り立ちであります」
「へぇ、神さまの名前だったのか」
それは知らなかった。
みんなも初耳らしく、驚きと感心を半々にしたような顔をしていた。
「フィリアでは、子供でも知っているような話なのですが……外に出ると、なかなか知られていないことなのであります。神さまの名前を国にしてしまうなんて、なんて恐れ多い……と考える人もいるようなので」
「まあ、理解できない人はいるかもしれないな」
「でもでも、ボクは良いと思うな。尊敬する人の名前が国の名前になったのなら、それに恥じないよう、がんばりたいって思うからね」
「はい、その通りなのであります!」
ユスティーナの発言は心に来るものがあったらしく、ククルはとてもうれしそうな顔をした。
「ところで、神さまが姿を見せたのは、その時だけなのですか?」
「記録上では、そうなっているのであります」
「ふむ。一度きりの奇跡で、ここまで信仰が続くのはすごいね」
「いえ、一度ではないのであります」
「と、いうと?」
「神さまは、時々、信託を授けてくれるのです。大きな事件、事故が起きる時など、信託を授けてくれて、回避する術を教えてくれるのであります」
「なるほど。信託があるから、今も信仰が続いて……いや、今まで以上に厚くなっているのか」
「アルト殿、正解であります!」
神の力を頼りにしつつも、自らの足で立ち、歩いていくことを忘れない。
フィリアの人の強さを理解できたような気がした。
「最近は、神託とかないのか?」
「……最近はないのです」
グランの問いかけに、わずかな間を置いてから、ククルはいつもの顔で答えた。
なんだろう?
今、なにか違和感があったような気がしたが……
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