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3話 転入生はバハムート

 一週間後。

 俺はいつもと変わらない日々を過ごしていた。

 学院に登校して、セドリックにいじめられて、疲弊して寮に帰る……

 そんなサイクルを繰り返していた。


 いったい、いつまでこんな日が続くのか?

 うんざりとしてしまうが……

 でも、どうすることもできず、俺は現状を受け入れるしかなかった。


 そんなある日のことだ。

 緊急の全校集会が開かれることになり、グラウンドに移動した。


 いったい、なんだろう?

 なにかしら事件が起きたのか、それともこれから起きるのか。


 というか、どうしてグラウンドなんだ?

 全校集会はいつも講堂で開かれているんだけど……


 不思議に思いながらも、とりあえず先生の話を待つ。

 ややあって、学院長が壇上に立つ。


「えー……今日はみなさんに新しい仲間を紹介します」


 新しい仲間ということは転入生か?

 でも、転入生が来る程度で全校集会を?


 先生の合図で転入生が現れて、壇上へ登る。


 俺と同じ……15くらいの女の子だ。

 夜空のように鮮やかな黒髪は長く、ヘアバンドが星のように輝いている。


 顔立ちは幼く、綺麗というよりはかわいいという感じだ。

 ただ、愛嬌を感じさせるもので、これはこれで人気が出るだろう。

 自然と人を惹きつけるような魅力がある。


 学院の制服に身を包む体は……

 こんなことを言うのは失礼なのだが、やや起伏に乏しい。

 ただ、言い換えれば健康的で、元気いっぱいで力強さを感じさせる。


 その女の子は……


「はじまして。ボクは、ユスティーナ・エルトセルクっていいます。よろしくね!」


 にっこりと愛嬌のある顔で挨拶をした。


「……」


 俺は驚きのあまり、言葉を失っていた。

 まさか、あの時の女の子が学院に転入してくるなんて……

 なんて奇妙な縁なのだろう。


 あるいは……運命とか?


「ふぅ」


 我ながらクサイことを考えてしまい、自分に対して苦笑した。

 いったい、どんな運命だっていうんだ。

 ユスティーナが転入してきたからといって、なにかが変わるわけでもあるまいし。


 ……そんなことを考えていたのだけど。

 わりとマジで、この後、俺の運命は大きく変わるのだった。


「えー……ユスティーナさんですが……」

「ボク、先生に名前で呼ばれる理由なんてないけど? ボクたちのことを名前で呼んでいいのは、認められた人だけだよ? それくらい、ボクたちにとって名前っていうものは大事なものなんだよ?」

「エルトセルクさんですが……」


 ユスティーナに笑顔で睨まれて、先生は汗をダラダラと流しながら言い直した。


 なんだろう?

 ユスティーナに逆らえないというか、怯えているみたいだけど……

 もしかして、セドリックのように偉い貴族なのだろうか?


「実は、少し……いえ、かなりみなさんと違うところがありまして、ちょっと特殊なところがありまして……」

「もう、説明がまどろっこしいよ。後はボクが説明するね」


 先生の出番を奪い、ユスティーナが一歩前に出る。


 こほんと咳払いをして……

 にっこりと笑いながら、爆弾発言をぶちかます。


「実はボク、人間じゃなくて竜なんだ」


 一瞬の沈黙の後……

 多くの生徒が笑った。


 うける、とか、意外と面白い子? とか。

 いきなり冗談をかますなんて度胸があるなあ、とか。

 そんな声がちらほらと聞こえてきた。


 その反応を見て、ユスティーナはやれやれとため息をこぼす。


「やっぱり、最初は信じてくれないよねー。ま、わかるよ。先生たちも、最初は信じてくれなかったからね。だから、今から証拠を見せるよ」


 ユスティーナは壇上からトントンとリズムよく降りた。

 そして、周囲に人がいないところへ移動する。

 まるで、人がいたら邪魔になると言わんばかりに。


「ほいっ」


 ユスティーナの体が光に包まれて……

 一気に光が巨大化して、閃光となって弾ける。


 光が弾けた後には……

 漆黒の竜がいた。


「……マジで?」


 はたして、それは誰のつぶやきだっただろう。

 たぶん、俺を含めて、この場にいる全員の心の声を代弁したものだったと思う。


「マジだよん」


 漆黒の竜……ユスティーナが口を開いた。

 どういう風に喋っているのか、きちんと人の言葉を話している。


「正真正銘、ボクは竜なんだ。これで理解してもらえたかな?」


 ざわざわと、途端に生徒たちが騒がしくなる。

 対して、先生たちはどこか諦めたような顔をしていて、とても静かだ。


 なるほど。

 先生たちはユスティーナの正体を知っていたのか。

 だからこそ、特別な転入生が来たことを知らせるために、わざわざ全校集会を開いた。

 講堂だと破損する恐れがあるから、場所をグラウンドにした。

 そんなところだろう。


「お、おい……あの竜、もしかして神竜バハムートじゃないか……?」

「えっ!? 竜の頂点に立つ、最強の中の最強って言われている?」

「伝説の存在だよな……なんでも、魔王とタイマンして圧勝したとか……」


 色々な噂が飛び交い、それを耳にしたユスティーナが口を開く。


「魔王と戦って圧勝した、っていうのは、たぶん、お母さんのことじゃないかな? ボク、こんなだけど、一応、15歳の乙女だから」

「へ、へぇ……」

「でもでも、力には自信があるよ。そこらの魔物なら、1万匹くらいまでなら、まとめて一撃で吹き飛ばせると思うよ」

「は、ははは……」


 もはや乾いた笑いしかこぼれない。


「ほい、っと」


 ユスティーナが光に包まれて……

 再び人の姿に戻った。

 壇上へ戻り、話を続ける。


「ボク、やりたいことがあって、無理を言ってこの学院に入学させてもらったんだ。やりたいこと、っていうのはね……うーん、と」


 ユスティーナがキョロキョロと生徒たちを見回して……

 不意に、俺と目が合う。

 瞬間、花が咲いたように、ユスティーナは満開の笑みを浮かべた。


「見つけた! やっぱりここにいたんだねっ」

「え?」


 ユスティーナが壇上から飛び降りた。

 トンッ、と華麗に地面に着地して、そのまま駆ける。


 その目的地は……俺?


「アルトっ!!!」

「おわっ!?」


 ユスティーナにおもいきり抱きつかれた。


「アルト! アルトアルトアルト! 会いたかったよぉ!」

「お、おいっ? いきなりなにを……」

「ボク、アルトに会うためにここに来たんだよ!」


 周囲の生徒たちの視線が集中する。

 そんな状態で、ユスティーナは再び爆弾発言をする。


「これからは、ボクがアルトの騎竜になってあげるからね!」

「え……?」

「だから、もう心配しなくていいよ。安心していいよ。大丈夫だからね!」

「えっと……ユス……じゃなくて、エルトセルクさん? いったい、なんのこと……」

「もう、エルトセルクじゃなくて、ボクのことはユスティーナって呼んでほしいな。この前も、そう自己紹介したよね?」

「いや、でも……名前はとても大事なもの、なんだよな?」

「大事だよ」

「なら、ダメだろ」

「ううん、アルトならいいんだよ♪」


 さらに、ぎゅうっと抱きついてくる。


「アルトはボクが認めた人だからね。名字じゃなくて名前で……というか、名前で呼んでくれないとイヤだよ」

「えっと……ユスティーナ?」

「うんっ!」


 催促するような視線に負けて彼女の名前を呼ぶと、ものすごくうれしそうな顔をされた。


「あのー」


 一人の生徒がおそるおそる話しかけてきた。


「いったい、二人の関係は……?」


 ユスティーナが、本日、最大級の爆弾発言を投下する。


「ボク、アルトに一目惚れしちゃったんだ。だから、アルトを追いかけて、この学院までやってきたの! だから、関係っていうと……未来の夫婦かな!」


 一瞬の静寂の後、


「ええええええええええぇぇぇっ!!!!!?」


 俺を含めて、その場にいる者全員が驚愕の声をあげた。

本日19時にもう一度更新します。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
こういう物語大好物
[良い点] テイマーさんのレインも好きだけど あの人を見ていると非常にじれったくなってしまい このままだとお隣さんとを隔てる小生の自室の壁が亡くなってしまうので こうやってヒロインが積極的だとうちの壁…
[良い点] お約束の流れでも登場人物のセリフにくどさを感じなくて読みやすいです。 これから続きを読むのが楽しみです。
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