294話 わがままでいこう
「そんな簡単に……いや、ホントはぜんぜん簡単なんかじゃないんだろうけどさ!? でもでも、アルト好きなのを諦めちゃうとか、えっと、それでいいのかな、って思うよ!?」
自分はなにを言っているのだろう?
ユスティーナは、自身がおかしなことを言っているという自覚はあったが……
しかし、言葉は止めない。
止めてはいけないような気がした。
アルトを譲る気なんてない。
アルトが自分と別れ、ジニーかアレクシアのどちらかと付き合うようなことになれば、ずっと涙が止まらなくなるだろう、と思う。
それでも。
ユスティーナは、彼女達の恋心を殺してしまうことは絶対にできないと思った。
「こんなこと、ボクが決めるようなことじゃないんだけど……ジニーとアレクシアは、諦めないで欲しいっていうか、ボクが正妻っていうところは譲らないけど、でもでも、側室はアルモートでは認められているというか、むしろ、そうした方がアルトにとってプラスというか……あうあうあう」
「お、落ち着いて。なにを言いたいのか、ちょっとわからないんだけど」
「私たちの都合の良いように解釈するのならば……側室を認めてくださる、ということになると思うのですが、そうなのですか?」
「うんっ、そういうこと!」
「「……」」
はっきりと頷くユスティーナを見て、ジニーとアレクシアがキョトンとなる。
そして、これは現実? という様子で、それぞれ協力して、互いの頬をつねる。
痛みに顔をしかめた。
間違いない、これは現実だ。
「エルトセルクさん、だ、大丈夫!? もしかして、なにか悪いものでも食べたの!?」
「気をしっかりと持ってください! 今すぐに、我が家の治癒師を呼びますから!」
「どうしてそういう反応になるのかなあ!?」
「「だって、エルトセルクさんだもの」」
「うぐっ」
二人揃って同じことを言われてしまい、ユスティーナはたじろいだ。
わかっている。
自覚している。
自分は、明らかに今、おかしいことを口にしている。
ユスティーナは、自分がそれなりに嫉妬深いことを自覚していた。
ジニーやアレクシアなど、親しい友人に無差別に嫉妬するほど愚かではないが……
しかし、見ず知らずの女性がアルトに声をかけたり、好意的な行動を取るのを見れば、焦りふくれてしまう。
そんなユスティーナだからこそ、側室を認めるなんていう発言はありえない。
そう思われても仕方ない。
事実、ユスティーナは側室なんて認めるつもりはなかった。
大好きなアルトを独り占めするつもりでいた。
だけど……
ジニーとアレクシアが、泣きそうになりながらも笑っているところを見たら……もうダメだった。
どうしても、このまま流すことはできず……
気がつけば、側室を認めるような発言を口にしていたのだ。
「えっと……ど、どういうこと?」
ユスティーナの心変わりに、ジニーたちも戸惑っていた。
それもそうだ。
素直に身を引くつもりでいたら、そんなことはしなくていい……だ。
どうすればいいかわからなくなってしまう。
「うー……」
ユスティーナは、自分の心をどのような言葉にすればいいか迷い……
しかし、うまい言葉は見つからず……
結局、たどたどしいながらも、思うところをそのまま言葉にして並べた。
アルトのことは大好きで、独り占めしたいという気持ちはある。
でも、ジニーやアレクシアなど、他の女の子を悲しませてまでしたくはない。
そんなことになるなら側室などを認めて、みんなで一緒に幸せになった方がいい。
……などなど。
みんなで一緒にいたいことを告げる。
もしも、この場に過去のユスティーナがいたら、自分の変貌にとても驚いていただろう。
過去のユスティーナは、アルトを必要としていたが、その他は気にしていなかった。
しかし、今は違う。
その他と割り切ることはできなくて、いつまでも一緒にいたい、大事な存在と思っている。
一人だけではなくて、多数を求める。
それは、とてもわがままなことではあるが……
それだけ人を理解して、心が近づいて、成長した証でもあるのだろう。
そのことを感じたジニーとアレクシアは、それぞれ微笑む。
「その……本当にいいのかな? あたし、アルトくんのこと、諦めなくてもいいの?」
「うん」
「私は、この機会を逃したら、もう心を変えることはできないと思いますが……それでもいいのですか?」
「うん」
ユスティーナは二人の手を取り、笑う。
「みんな一緒がいいや」
ユスティーナ・エルトセルクは、とてもわがままな女の子だった。
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