291話 レイネル家
レイネル家。
アストハイム家、イシュゼルド家に続く五大貴族の一角だ。
アストハイム家は軍事、イシュゼルド家は外交を担い……
レイネル家は、農業を担当している。
農業と侮ることなかれ。
アルモートの食料自給率は70%に達する。
比較的裕福な国でも、食料自給率は40%程度だ。
そのことを考えれば、いかに驚異的な数字か理解してもらえると思う。
その数字を支えているのが、アルモートの農業だ。
国を支えていると言っても過言ではない。
食べるものがなければ戦うことはできないし、輸出して金を得ることもできないのだから。
故に、農業を担当するレイネル家はかなりの力を持つ。
伊達に五大貴族を務めていない、というわけだ。
「うむ。私は、レイネル家の生まれだ!」
家に誇りを持っているらしく、クーフェリアは胸を張り答えた。
「そんな君が、どうして俺のサインを?」
「どうして、って……さきほども言ったが、エステニアくんはすごい竜騎士じゃないか! 同じ学生として、強く強く憧れる。こう見られると嫌かもしれないが、私にとってエステニアくんは、舞台俳優のようなものなんだ」
「そ、そうか……」
彼女の熱意に押されてしまう。
ただ……クーフェリアは、特に悪い子ではなさそうだ。
アストハイム家という前例があるから、五大貴族と聞くと、ついつい警戒してしまうのだけど……
でも、そんなことはなさそうなので、とりあえず安心した。
「レイネルも、修学旅行の買い物を?」
「ああ、そうだな。そうそう、私のことは、クーフェリアと呼んでほしい。家のことは誇りに思っているが、しかし、私が成し遂げた功績はゼロだ。故に、名前で呼んでくれないか?」
「わかった。なら、俺のこともアルトで」
「うむ、よろしくな、アルト!」
「ああ、よろしく」
友好の握手を交わして……
「「「むう」」」
ユスティーナのジト目が。
彼女だけではなくて、ジニーとアレクシアも一緒だった。
ヤキモチを妬いてくれているのだろうが……
ただ握手をしただけなのに。
「おい、アルト。お前のことだから、握手だけなのに、とか思ってるだろうが……」
「そういう些細なことでも、微妙に思う女性は多いよ。全ての女性がそうとは言わないが、基本的に、独占欲が強く嫉妬深いものだからね」
なんて話をされてしまう。
テオドールが言うと、ものすごく説得力があった。
恋愛経験などは、俺とは比べ物にならないだろうからな。
「おっと、もうこんな時間か。せっかく知り合えたのだから、色々と話をしたいが、すまない。私は用事があるんだ」
「そっか、残念だな」
「機会があれば、色々と話をしてくれるか?」
「もちろん」
「うむ、楽しみにしている。じゃあ、またな!」
明るく元気な笑みを見せて、クーフェリアは一足先に店を後にした。
ちょっと変わった感じはしたが……
でも、とても良い子に思えた。
レイネル家とか関係なく、時間があればゆっくりと話をしたいと思う。
「あーるーとー……?」
「ゆ、ユスティーナ……?」
幽霊を彷彿とさせる感じで、ユスティーナがずずずっと詰め寄ってきた。
「また、新しい女の子を毒牙にかけちゃうの……?」
「いや、待て。そんなつもりは……」
「むー、むぅううううう! ボクというものがありながら、目の前で堂々と浮気をするなんて!」
「だから違う。そんなつもりは……」
「アルトのばかー!!!」
……結局、ユスティーナをなだめるのに一時間を費やしてしまうのだった。
――――――――――
「あれが、アルト・エステニア……若き英雄か、ふむ。話は聞いていたが、直接顔を合わせると、また違う印象を受けるな」
「久しぶりにワクワクしたな、うん! 彼が敵になるとしたら、とても厄介だと思うが……でも、それはそれで楽しそうだ!」
「さて……姉上に連絡をとらなければいけないな。最近は、組織をまとめるので忙しいと聞くし、無理はしていないだろうか?」
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