289話 買い物へ行こう
修学旅行となれば、色々なものが必要になる。
そのための買い物に行くことにした。
「ねえねえ、アルト。これなんてどうかな? 似合う? ボク、かわいい?」
ユスティーナは、ワンピースを自分の体に当てて、笑顔で尋ねてくる。
白のワンピース。
黒い髪と良い具合に対比になって、とても似合いそうだ。
「って、まった。どうして、服を選んでいるんだ?」
修学旅行なので、私服を着ることはない。
全て制服と運動着だ。
「そこにあったから、つい?」
「本来の目的を忘れないでくれ……」
「まあまあ、アルトくん。こういうところに来たら、ついつい手を伸ばしちゃうのが乙女、っていうものよ?」
「少し気持ちはわかりますわ。かわいい服があると、関係ないとわかっていても、試着などをしてみたくなってしまいます」
「だよねー」
「あうあう!」
女性陣はいつも仲が良い。
ノルンも同意なのか、一緒になってはしゃいでいた。
一方の男性陣は……
「寝間着って言われてもな……パンツ一丁でよくないか?」
「それはさすがにないだろう……寝る時であろうと、己を良く見せることを忘れてはいけない」
「めんどくさくないか?」
「そういうところが、グランが女性に好意を寄せられない原因であると思うのだが」
「うぐっ」
なんだかんだで、男性陣も仲が良さそうだ。
グランとテオドールが、それぞれ寝間着を見ている。
そう……今日は寝間着を買いに来たのだ。
修学旅行中の服装は、制服と運動着がデフォルトとなるのだけど、寝る時は違う。
寝る時くらいはリラックスしないと、という理由で、寝間着を持ってくる必要があるらしい。
せっかくだから新しいものにしようと、みんなで買いに来たわけだ。
「アルトー、これなんてどうかな?」
「ごふっ」
ユスティーナは、今度は寝間着を手にした。
しかし、それは寝間着というべきなのか、生地がやたら薄く透けていて……
それだけではなくて、丈が足りなくて、色々と見えてしまいそうだ。
こんなものをユスティーナが着たら……
「アルト、今、想像した?」
「……いや」
「えへへー、アルトのえっち」
……なにも反論できない。
そして、なぜユスティーナはうれしそうなのか?
「さて……どれにしたものか」
気を取り直して、寝間着を探す。
テオドールは、寝る時でさえ己を着飾る必要があると力説しているのだけど……
正直なところ、そこまでの興味はない。
異色なデザイン、配色でなければそれでいい。
欲を言うのなら、機能性に優れていて、温かいものだと良い。
フィリアは山岳地帯にあるから、たぶん、寒いからな。
「良いものはないだろうか?」
色々な種類があるため、これだ、と決めることができない。
俺は、けっこう優柔不断だったのだろうか?
そんなことを思いつつ、商品を見て歩いて……
「あっ」
「ひゃっ」
トン、と人とぶつかってしまう。
幸いにも、倒れるとか怪我をするとか、そういうことはなさそうだ。
「すみません。よそ見をしていました」
「いや、こちらこそすまない」
学院の制服を着た女の子だった。
俺達と同じように、修学旅行で使う寝間着を買いに来たのだろうか?
「うん? ……もしかして、アルト・エステニアくん?」
「そうだが……?」
向こうは俺を知っている様子だ。
もしかして、初対面ではないのだろうか?
疑問に思っていると、女の子は、おもむろにペンと紙を取り出した。
「おお、ちょうどよかった。サインをしてもらえないか?」
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