287話 修学旅行
修学旅行は学院行事の一環だ。
教師の引率により、生徒達が団体で旅行をする。
普通の観光ではなくて、勉学や鍛錬を目的とした旅行だ。
もちろん、そればかりではなくて、ある程度の遊び要素も混じっている。
「ねえねえ、アルト。修学旅行って?」
「それは……」
「ほう、ほうほうほう……へえええええぇ!!!」
修学旅行についての説明をすると、ユスティーナの瞳がキラキラと輝いた。
「みんなで一緒に旅行なんて、楽しそうだね!」
「そうだな。ただ……」
「ただ?」
「まだ説明途中だから、ちゃんと話を聞こうな?」
「あっ」
慌ててユスティーナが前を見る。
フレイシアさんが怒って……いない。
「もう、ユスティーナちゃんったら。私の話の途中なのに……でもでも、修学旅行を楽しみにするところもかわいい♪」
「お姉ちゃん……ボクが言うのもなんだけど、今のは叱るところだと思うよ?」
「そんな! かわいいかわいいユスティーナちゃんを叱るなんて、そんなことできるわけないじゃない!」
なんとなく、フレイシアさんとグレイシアさんが重なって見えた。
さすが親子。
「こほんっ」
さすがにこのままではいけないと思ったらしく、場を仕切り直すように、フレイシアさんが咳払いをした。
教師の顔に戻り、ホームルームを再開する。
「修学旅行の行き先は、聖国フィリアよ」
聖国フィリア……ククルの故郷だ。
この場にククルがいたら喜んでいたかもしれない。
「期間は、一週間後。移動時間を除いて、三泊四日。みんなが準備するのは衣服と武具くらいね」
「武具も必要なんですか?」
「もちろんよ」
ジニーの質問に、フレイシアさんは当然とばかりに頷いた。
「ただの旅行じゃなくて、しっかりと鍛錬をするの。向こうで武具を借りることもできるけど、それよりは、使い慣れているものを持っていった方がいいでしょう?」
「はい、そうですね」
「マジかー……旅行なのに鍛錬とか、勘弁してくれよ」
真面目な顔をするジニーと正反対に、グランはがっくりとした様子だ。
旅行と聞いて、遊び呆けることができると思っていたらしい。
そんなグランを見て、フレイシアさんが苦笑する。
「まったく、仕方ないわね」
「あはは……」
「鍛錬はあるけど、でも、そればかりというわけじゃないわ。半分くらいは観光地を巡ったり、自由時間があるの」
「マジですか!?」
「マジよ!」
グランのテンションに合わせるかのように、フレイシアさんは胸を張って言う。
「だから、もっとやる気を出しなさい」
「はい!」
さきほどのだらりとした姿はどこへやら。
グランはシャキっとして、やる気をみなぎらせていた。
うーん。
あのグランを、短時間でこんなにしてしまうなんて。
ユスティーナの近くにいたいからと、強引に教師になったフレイシアさんだけど、意外と向いているのかもしれないな。
「後で、詳細をまとめた資料を配布するわ。それまでに、班を決めておいてくれる? 特に制限はないけど、一つの班は四~五人くらいが好ましいわね」
俺、ユスティーナ、グラン、ジニー、アレクシア、ククル。
六人になってしまうが、たぶん、許容範囲だろう。
テオドールは別のクラスだけど……
ああ見えて交友関係がかなり広いから、心配する必要はないだろう。
「それじゃあ、一限目の授業を……」
「修学旅行だってさ、修学旅行!」
「俺、旅行なんて初めてだよ」
「フィリアって行ったことないから楽しみー!」
「自由時間って、どこに行ってもいいのかな? 色々調べておこう」
クラスメイトたちは、すでに旅行気分であれこれと笑顔で話をしていた。
いつものフレイシアさんなら雷を落とすのだけど……
今回は仕方ないという様子で、苦笑していた。
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