286話 姿が見えない聖騎士
戦術武闘大会は終わり。
そして、旅行も終わり。
再び日常が戻ってくる。
「おはよう」
「おはよー!」
「おっす、アルト」
「おはよう、アルトくん、エルトセルクさん」
「おはようございます、アルトさま。エルトセルクさん」
みんなやクラスメイト達と挨拶を交わすのだけど……
「あれ? ククルは、まだ来ていないのか」
小さな聖騎士の姿が見当たらない。
彼女はとても真面目で、いつも一番に教室に来ていた。
それで軽く掃除をするという、まさに聖女のような行い。
そんなククルだけど、教室内に姿が見当たらない。
たまたま席を外しているのだろうか?
「そうなんだよな。ミストレッジさん、今日はまだ見かけてないんだよ」
グランが不思議そうに言う。
「もう少ししたら始業だけど……休みなのかしら?」
「風邪でも引いたのでしょうか? 心配ですね……」
ジニーとアレクシアが心配そうに言う。
すぐにククルのことを思いやることができる辺り、彼女達の人柄がよく現れていると思う。
「はいはーい、ホームルームを始めるわよ。席につきなさーい」
この前、ウチのクラスの担任になったフレイシアさんが、出席簿を手に教室に入ってきた。
これで、ククルがいないことは確定。
遅刻ということは考えづらいから、休みだろうか?
「じゃあ、いない生徒は手を挙げなさい」
大雑把すぎる。
「って、冗談よ、冗談。だから、そんな目で見るのはやめなさいって」
クラスメイト達の白けた目を向けられて、さすがのフレイシアさんも慌てていた。
最強の竜といえど、ちょっとしたギャグが滑った時は辛いらしい。
「連絡事項だけど……そうね、まず最初に、ミストレッジさんはしばらく休むことになったわ」
「病気なんですか?」
「いいえ。家の事情とやらで、一時帰国しているみたいよ。事前に聞いていた予定では、来月には戻ってくるはずね」
「そうですか……」
ククルが病気ではないと知り、ひとまず安心した。
でも……なんだろう。
家の事情ということは、たぶん、聖騎士絡みのことなのだろうけど……
そこはかとなく嫌な予感がした。
「そっかー。じゃあ、しばらくククルには会えないのかー」
ユスティーナが残念そうに言う。
ククルと一番仲が良いのは、たぶん、彼女だろう。
性格が合うというだけではなくて……
全力を出して互角に戦える相手。
宿敵と書いて友というヤツだ。
「ふっふっふ……ユスティーナちゃん、そう落胆することはないわ」
「どういうこと?」
「来月まで待たなくても、ミストレッジさんに会えるわ」
「???」
フレイシアさんの言葉の意味がわからない様子で、ユスティーナは小首を傾げた。
意味がわからないのは俺達も同じだ。
フィリアに戻ったククルに会えるとは、どういうことだろう?
「はい、注目!」
フレイシアさんは、大きな声を出してそう言う。
笑顔を浮かべていて、とても楽しそうだ。
「一週間後、竜騎士学院では一大イベントが開催されるわ」
「一大イベント?」
なんだろう?
どういうことだ?
クラスメイトがざわざわする。
そんなみんなを見て、フレイシアさんは子供が悪巧みするような笑みをにんまりと浮かべて……
そして、とてもとても楽しそうに言う。
「そう、それは……修学旅行よ!」
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