285話 今夜は一緒に
夜。
すでに明かりは消して、部屋は暗闇に包まれている。
ベッドに横になった俺は、寝ようと目を閉じるのだけど……
「……眠れないな」
昼間の占い師の言葉が気になる。
希望と絶望。
なんていう両極端な運命。
本当に、俺とユスティーナはそんな定めにあるのだろうか?
たかが占い。
考えても仕方のないことなのだけど……
それでも、簡単に無視できるような内容ではなくて……
結果、あれこれと考えてしまい、なかなか寝ることができないでいた。
「すぴー……すぴー……」
穏やかな寝息が聞こえてくる。
ノルンのものだろう。
俺とユスティーナの未来は、希望か絶望の二択。
ならば、ノルンは大丈夫だろうか?
ユスティーナと同じ竜だけど、特に問題はないのだろうか?
俺達の個人的な問題ならいいのだけど……
もしも、竜全体に関わるような問題だとしたら、ノルンも巻き込まれてしまうわけで……
「……ダメだな、どうしても考えてしまう」
こんなことをしていたら眠れないのはわかっているのだけど、それでも、考えずにはいられない。
たかが占いと笑い飛ばすことができない。
それだけの力が、占い師の言葉に秘められているような気がした。
「……アルト」
「うん? ユスティーナ?」
気がつくと、ユスティーナがベッドのすぐ隣に。
黒のパジャマ。
それと、白い枕を腕に抱えていた。
「どうしたんだ? 眠れないのか?」
「うん、ごめんね……起こしちゃった?」
「俺も眠れなかったから。それよりも、どうしたんだ?」
「あのね……一緒に寝てもいい?」
「え?」
「……」
ユスティーナは、それ以上、なにも言わない。
ただただ、不安そうな顔をしてこちらを見ていた。
すぐに察した。
おそらく、ユスティーナも不安なのだろう。
占いのことを考えてしまい、でも、一人ではどうすることもできなくて……
「わかった、おいで」
「うんっ、ありがとう、アルト!」
一緒に寝るなんて、と迷うものの、しかし、こんな不安そうなユスティーナを放っておくことはできない。
ユスティーナを招いて、一緒にベッドに横になる。
「……」
「……」
彼女の温もりで布団が温かくなる。
さきほどとは違う意味でドキドキしてきた。
「えへへ」
「どうしたんだ?」
「やっぱり、アルトは温かいなあ、って」
「俺は暖房器具じゃないぞ?」
「わかってるよー。そうじゃなくて、一緒にいると安心できて、心がぽかぽかする、っていう意味なんだよ」
ユスティーナが抱きついてきた。
でも、不思議といやらしい気持ちにならず……
とても安心することができた。
「……アルトは、あの占い、どう思う?」
「ただの占い……と笑い飛ばしたいところだけど、なんとも言えないな。本当にそうなるんじゃないか、という不思議な力を感じた」
「そうだよね……うん、ボクも同じ感想。近い将来、とんでもないことが起きるような……そんな不安が消えてくれないの。ボク、どうすればいいのかな……?」
俺も不安を抱えているが、しかし、そんなことはどうでもいい。
世界で一番大事な女の子が不安に怯えているんだ。
ここで彼女を励まさなければ、彼氏でいる資格なんてない。
「大丈夫だ」
「あ……」
ユスティーナを抱きしめ返す。
「絶望と言っていたが、希望もあると言っていただろう? だから、絶対に希望を掴み取ってみせる。不安に思うことはない。ユスティーナは、俺に全部任せて、笑っていてほしい」
「うん……ありがとう、アルト。今夜は、このままでいい?」
「ああ」
「……ありがとう」
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