280話 思い出を積み重ねよう
「メモリーオーブ?」
翌朝。
宿をチェックアウトしたところで、先日購入したメモリーオーブを取り出した。
「なにそれ?」
「特定の景色を保存することができる、魔道具らしい」
「へー。人間って、おもしろいものを開発するんだね」
「コレを使って……二人の思い出を作らないか?」
「……」
ユスティーナがポカンとした。
唐突だっただろうか?
心配するのだけど……それは無用だったらしく、みるみるうちに笑顔になる。
「作る! すごい作る!! いっぱいたくさんおもいきり作る!!!」
「あ、ああ」
こちらが引いてしまうほどの食いつきっぷりだ。
「えへへー、アルトとの思い出。二人だけの思い出。一生の思い出」
もしも、ユスティーナが竜形態であったのなら、尻尾がぶんぶんと揺れていただろう。
それくらいに喜んでいた。
「景色の良いところを探してみるか?」
「うんっ」
「王都への馬車は昼前に出るから、少し急いだ方がいいな」
メモリーオーブを使う絶好のポイントを探して、二人で街を歩いて回る。
「あら? エステニアさんに、エルトセルクさん!」
「あっ、レイラだ。やっほー」
ふと、レイラさんと鉢合わせた。
向こうは相当に驚いているのだけど、ユスティーナはとても気楽な様子だ。
「ど、どうしたんですか、こんなところで?」
ユスティーナの立場を知っているからなのか、レイラさんは緊張していた。
「レイラさんこそ、どうしたんですか?」
「私は、お昼ごはんの材料の買い物の途中でして……お二人は?」
「実は……」
メモリーオーブのことを説明する。
「良い場所を探しているんだけど、どこかないかな?」
「そう、ですね……でしたら」
――――――――――
「おーっ、すごく良い景色だね!」
レイラさんに教えてもらったのは、街外れの花畑だ。
視界を埋め尽くすほどに広く、多種多様の花が咲いている。
花の配置のバランスが絶妙で、目を疲れさせることなく、逆に虜にされられる。
「アルト、すごくいいね!」
「そうだな。レイラさんに感謝しないと」
「えへへー、じゃあじゃあ、さっそく記念撮影しよう?」
そう言って、ユスティーナはぴたりとくっついてきた。
「ゆ、ユスティーナ……?」
「そ、そんなに驚かないでよ……ボクまで恥ずかしくなっちゃう」
なんて言うのだけど、くっつく前から耳が赤くなっていたような気がする。
確信犯だな。
「その……ボク達、恋人なんだから。これくらい、ふ、普通だよね?」
「そう、だな……ああ、普通だ」
「えへへー」
ひたすらにユスティーナのことが愛しい。
ずっとずっと、この宝物を抱きしめたいと思う。
とはいえ、他にも人がいる中で、そんな大胆なことはできない。
いや、できる人はいるのだろうが……
俺達は、昨日付き合い始めたばかりの、恋人初心者。
さすがに難易度が高い。
なので……
「あっ」
肩を寄せる程度にしておいた。
それでもユスティーナはうれしいらしく、にっこり笑顔に。
「じゃあ、これで」
「うんっ」
花畑を背景に、俺とユスティーナの笑顔を記録するのだった。
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