278話 混浴
個室に備え付けられた風呂は、わりと広い。
家族用らしく、数人が一緒に入っても問題のない広さだ。
それだけじゃなくて、植物が飾られているなど見た目にも楽しい。
独特の雰囲気が漂っていて、とても落ち着くことができる。
……本来ならば。
「ユスティーナのヤツ……本気なのか?」
一緒にお風呂に入ろう。
さすがに一緒に服を脱ぐのは恥ずかしいから、アルトは先に入っていて?
なんてことを言われ……
半ば押し切られるような形で、一緒に風呂へ入ることに。
俺は先に湯船に浸かっているのだけど、ぜんぜん落ち着くことができない。
これは現実なのか?
ユスティーナは本気なのか?
この後、フレイシアさんが現れて、実はドッキリでしたー、って言われる方がとても納得できる。
というか、そうであってほしいと願う。
晴れてユスティーナと結ばれたものの、さすがに、いきなり混浴を体験するなんて……
それはまだ早いというか、いくらかの過程を飛ばしているというか。
「ダメだ、俺もけっこう混乱しているな」
とにかくも、落ち着かないと。
深呼吸をしようとして……
「……お、おまたせ」
「ごふっ」
とても恥ずかしそうなユスティーナの声が後ろから聞こえてきて、ついつい咳き込んでしまう。
本当に風呂に入ってきた?
ということは……今、ユスティーナはなにも身につけていない?
タオル一枚?
俺も男だ。
振り返り、今すぐに確認したい気持ちに駆られるが、ぐっと我慢する。
ものすごく気になるが、がっつくようなことをして嫌われたくない。
付き合って間もないのだ。
あくまでも紳士にならないと。
「えっと、その……さ、さすがに恥ずかしいから、こっちは見ないでね?」
「あ、ああ。了解だ」
「それじゃあ、その……お邪魔します」
ちゃぷりと、ユスティーナが湯船に入る音。
小さな波紋が広がる。
ややあって、背中に触れる温かな感触。
「……」
「……」
背中と背中をぴたりとくっつけるようにして、温泉に浸かる。
お湯はほどよい温度なのだけど……
すぐ後ろに裸のユスティーナがいると思うと、とてもじゃないが落ち着くことなんてできない。
体はどんどん熱くなり……
湯あたりしてしまったかのように、頭の中がぐるぐるとなってしまう。
「ね、ねえ、アルト」
「な、なんだ?」
「えっと……温泉、気持ちいいね!」
「そう、だな」
「……」
「……」
すぐに会話が途切れてしまう。
嫌な雰囲気ではないのだけど、でも、なにを話していいかわからない。
たぶん、ユスティーナは勢いで一緒に風呂に入る? なんて聞いて……
実際にそうなってしまい、慌てているのだろう。
俺は俺で、いつもの少し過激なアピールだろうと、本気にせず適当な返事をして……
まさか本気だったとは、なんて慌てるハメに。
そして、どうすればいいかわからず、戸惑い、混乱する。
「……」
「……」
ユスティーナと背中を合わせて、顔を熱くしつつ温泉に浸かる。
さて……
こんな状況で、次はどうすればいいのだろうか?
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