28話 決戦
いよいよジャスと戦う日が訪れた。
決戦当日だ。
この日のために特訓してきたことを全部、ジャスにぶつけよう。
今日の授業構成は、1限目と2限目が実戦訓練だ。
今までと同じように、複数のクラス合同で行われる。
当たり前ではあるが、今回はジャスのクラスと合同だ。
体を慣らす軽い運動が全体で行われた後、実践訓練に移行する。
二人一組を作り、模擬戦が行われる。
俺はジャスと組むのだけど……
「……なんだ、この騒ぎは?」
訓練場の中心に俺とジャスが位置していて……
周囲をぐるりと囲むように、他の生徒たちが見学する体勢をとっていた。
ユスティーナもいた。
グランとジニーは見当たらないが……?
「先生、これは?」
「あー、えっと……エステニア君とラクスティン君が模擬戦をすると聞いていたので、今日は、他の生徒たちはその見学をしてもらおうかと。成績上位者同士の模擬戦となると、見ているだけでも色々と勉強になることが多いですからね」
いつの間にか、俺とジャスの決闘が知れ渡っていた。
こんなことをするのは……
「ジャス、お前の仕業か?」
「これだけたくさんの人がいるのならば、不正はできませんし、勝敗もハッキリと示すことができます。いいアイディアだと思いませんか?」
「それは……」
一理ある。
「先生を抱き込んだのも?」
「ええ、私ですよ。勝手に大事にはできませんからね。ああ、心配はしないでください。家の力なんて使っていませんし、あなたの相方……エルトセルクさんにも了承していただいていますよ」
「ユスティーナも?」
「不正などをするために、このような勝手をしたとなれば、彼女は許さないでしょうからね。ですが、今回は事前に先生に話をして、その正当性を示してあります。問題はありません。エルトセルクさんが止めに入らないことが、なによりの証となるでしょう」
言われてみると、ユスティーナは様子を見ているだけで、このお祭り騒ぎを止めようとしていない。
この前聞いたのだけど、ユスティーナはいじめを放置していた教師を脅したことがあるらしい。
そんなユスティーナが黙認しているのだから、怪しいが、ジャスの言う通り、罠などは仕掛けられていないのだろう。
「……わかった。見世物になるのは、少し落ち着かないが……俺は構わない」
「理解が早くて助かりますよ」
「なら……始めようか」
話はもういらない。
俺たちは仲良くおしゃべりをするような仲じゃないからな。
俺は訓練用の槍を構えた。
ジャスは訓練用の剣を構えた。
基本、騎士は剣を使う者が多い。
一般的に剣が一番扱いやすく、なおかつ、攻防に優れているからだ。
一方で、俺は槍を使う。
射程距離に優れ、威力もある。
ただ、懐に潜り込まれると弱いという弱点がある。
剣はそのような弱点はなく、いわゆるオールラウンダーだ。
普通なら、そんな剣を扱う方がいいのだけど……
俺は槍を好んでいた。
ごくごく単純な理由だ。
幼い頃に見た竜騎士が槍を使っていたからだ。
「先生、合図をおねがいします」
「わかりました。では、二人共、準備を」
俺とジャスの視線がぶつかる。
ざわついていた周囲の生徒たちも、いよいよ模擬戦が……いや、決闘が始まることを知り、言葉を収める。
事前に、竜の枷はすでに解除してもらっている。
万全の状態だ。
そして……
「はじめっ!」
先生の合図で、俺とジャスは同時に地面を蹴った。
――――――――――
ジャスが剣を構えながら突撃して、距離を詰めてくる。
さすがに速い。
風のような動きで、まったく無駄がない。
ジャスを迎撃するために、槍を一閃。
突きを繰り出すが……一撃目は回避された。
二撃目は剣で軌道を逸らされた。
三撃目も回避されるが、足を止めることに成功した。
次は……
「っ!?」
ジャスの動きを一瞬でも見逃さないように凝視していたおかげか。
小石でも踏んだのか、わずかにジャスの体勢が揺らぐ。
その隙を逃すことなく、俺は槍を振るうが……
「なっ……!?」
「ははっ、キミの槍は、その性格と同じようにバカ正直なのですね!」
ジャスは簡単に俺の槍を避けると、懐に潜り込んできた。
やられた!
ジャスが隙を見せたのは、わざとだ。
俺の攻撃を誘うために、あえて隙を見せたのだろう。
「ちっ」
大きく後ろに跳躍することで、ジャスの射程圏内から一時離脱した。
ジャスは深追いすることなく、様子を見ている。
二日間の特訓で、俺の戦闘技術はそれなりに向上した。
学院5位のジャスを相手にしても、一蹴されることがないのがその証拠だ。
しかし……それでもなお、経験が足りていない。
ジャスは幼い頃から訓練を続けてきたのだろう。
だからこそ、あえて隙を見せて攻撃を誘うというフェイントを使うことができる。
だが、俺は、戦うようになったのは学院に入学してからで……
圧倒的に経験が足りず、フェイントを織り交ぜることはできないし、簡単に相手のフェイントに引っかかってしまう。
なかなかに厄介だ。
ジャスが俺を侮り、ふざけた行動でもしてくれればいいのだが……
そのようなことはせず、ジャスは教科書通りのような動きで、きっちりと俺を追いつめてきている。
「ほらほら、その程度ですか? 神竜に好かれるというから、すごい力を持っているのかと思いましたが……やれやれ、期待外れですね」
「くっ」
「その程度、策を使うまでもない。このまま押し切ってあげますよ!」
「そうそう簡単にいくと思うな!」
ジャスが踏み込み、剣を乱舞させる。
それを回避して、あるいは槍の柄で受け止めて……
決定的な一撃は回避する。
悔しいが、ジャスは強い。
急造の特訓では、勝つことは難しい。
それだけ、ヤツの戦闘技術は深く鋭く研ぎ澄まされていた。
ただ……一点、俺が勝っているところがある。
身体能力だ。
ジャスに力負けすることはないし、速度で負けているところもない。
実際に刃を合わせているから、そのことが理解できた。
ならば……!
――――――――――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「ふぅ」
模擬戦が始まり、30分は経っただろうか?
未だ、決着はついていない。
ジャスはたくさんの汗を流して、肩で息をしていた。
対する俺は、多少、息が乱れているだけで大した疲労は感じていない。
俺は守備を強く意識して、とにかく時間を稼いだ。
ジャスは早く決着をつけようと、猛然と攻め込んできた。
その結果……
ジャスは体力を消耗して、明らかに動きが鈍くなっていた。
俺はまだまだ動くことができる。
相手の消耗を待つという、お世辞にもかっこいいとは言えない作戦だが……
負けるわけにはいかないのだ。
俺自身のため。
そして、ユスティーナのため。
この勝負、絶対に勝つ!
「くそっ、ちょこまかと……うっとしいですね」
「どうした、息が上がっているぞ?」
「くっ……」
「ここで決めさせてもらう!」
「調子に……乗らないでくれませんか!?」
最後の力を振り絞るような感じで、ジャスが斬りかかってきた。
思いの他、速い。
が、力はまるで入っていない。
槍の柄で受け止めて、そのまま剣を弾き飛ばそうと……
「動かないでください」
ジャスがささやく。
悪魔のようにささやく。
「あなたの友達は、私が預かっています」
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