277話 初夜
日が暮れて宿に戻った。
その間、ユスティーナは俺と腕を絡めて、ぴたりとくっついて……
ぜんぜん離れてくれない。
まるで子供だ。
でも、そんな彼女のことを微笑ましく思い、うれしく感じていた。
ユスティーナの温もりを感じて幸せな気分になり……
彼女の優しい声に、とろけるような気持ちになる。
これが恋というヤツなのだろう。
「おー、おいしそう!」
部屋に戻り、ほどなくして食事の時間に。
この地方独特の料理なのか、山菜がたくさん使われていた。
山菜の煮物という単純なものから、肉を山菜で包んで焼いたもの、山菜をタレにした魚の焼き物……などなど。
バリエーション豊かで、しかも匂いも良い。
いい感じに食欲が刺激される。
「いただきまーす!」
「いただきます」
ユスティーナと一緒に山菜料理に手を伸ばして……
そして、思う存分に大地の恵みを堪能した。
その後は、食後のお茶を飲んでくつろぐ。
いつもの紅茶ではなくて、緑茶というものを飲んでいた。
ちょっとした苦味がある。
ただ、逆にそれが、うまい具合に味を引き立てていて……
さらに、心が落ち着くような香りがたまらない。
「ふはぁ……落ち着くねえ」
「そうだな」
ユスティーナも緑茶を気に入ったらしく、何度もおかわりをしていた。
基本的に、緑茶は飲み放題らしい。
自分でお湯を沸かして用意しなければならないが、その他はタダ。
いくらでも飲むことができる。
「はふぅ」
ユスティーナは五杯目の緑茶を飲んで、心地よさそうに目を細くしていた。
猫みたいで、なんとなく微笑ましい。
「どうしたの、アルト? ボクの顔、なにかついている?」
「いや、すまない。かわいいから、ついつい見惚れていた」
「かっ……!?」
ぼんっ、とユスティーナの顔が赤くなる。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないよぉ……い、いきなりそんなことを言うなんて。反則。おもいきり反則だよぉ」
「そう、なのか?」
ユスティーナを好きと自覚してから、俺なりに女性の心理について勉強をしてきた。
曰く、女性はハッキリと気持ちを伝えてもらった方が喜ぶらしい。
なので、彼女がかわいいということを素直に口にしたのだけど……
これは間違いだったのだろうか?
やはり、女性の心理は難しい。
「えへへ」
「どうしたんだ?」
「アルトは、その……ボクのこと好きなんだよね?」
「ああ、そうだ。好きだ」
「ボクたち、恋人同士なんだよね?」
「そうだな」
「えへ、えへへへぇ」
とてもだらしのない顔になる。
でも、それも仕方ないか。
半年近く待たせてしまったからな。
それだけうれしいのだろう。
逆に言うと、それだけ想われているという証であり……
ユスティーナの想い、心、信頼を裏切らないように、しっかりとした彼氏であろうと誓う。
「そろそろ風呂の準備をするか」
宿の大浴場と、部屋にある個人用の浴室。
どちらを使うか?
「ユスティーナは、風呂はどうする?」
「んー……この前は大浴場を使ったから、今日は部屋のお風呂を使ってみたいかな? なんか、こっちも綺麗で色々あるし、楽しそうで気持ちよさそう」
「わかった。なら、宿の人に連絡をして、準備をしてもらうよ」
色々な魔道具が利用されているらしく、部屋の風呂を使う際は、従業員に頼むのが一般的らしい。
「……ねえ、アルト」
「うん?」
「せっかくだから、その、えっと……一緒に入る?」
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