274話 夕暮れの公園にて
あちらこちらを見て回り、グレイハウンドの観光を思う存分に楽しむ。
初日のようなトラブルは起きていない。
それどころか、こころなしか街は良い雰囲気だ。
街の人の笑顔は明るくて、生き生きとしているように見える。
領主が捕まった影響だろうか?
だとしたら、色々とがんばった甲斐があったのかな、と思う。
感謝されなかったとしても、がんばるつもりではいたが……
やはり、目に見える変化があると、それはそれでうれしいからな。
「ねえねえ、アルト。次はどこへ行こうか?」
少し先を歩くユスティーナは元気いっぱいだ。
朝からずっとこんな調子なのに、疲れた様子がまるでない。
さすが竜。
というか……女の子は、みんな強いのだろう。
「遊びたい気持ちはわかるが、そろそろ宿に戻らないと」
「あ、そうだね……」
空を見れば、太陽がゆっくりと沈み始めていた。
そろそろ夜が訪れる。
「んー……あっ、そうだ! それじゃあ、最後に行きたいところがあるんだ。付き合ってくれるかな?」
「それは?」
「えへへー、内緒♪」
ユスティーナは笑顔で俺の手を引く。
まあ、変なところを選ぶことはないだろう。
手を引かれるまま、成り行きに任せて……
そしてたどり着いた場所は、丘の上にある公園。
「へぇ」
思わず感嘆の声がこぼれてしまう。
夕焼けに染まる街が一望できる。
街全体が赤く輝いていて、まるで宝石のようだ。
「綺麗だね、アルト!」
「ああ、そうだな」
二人で絶景に見惚れる。
「ユスティーナは、これを俺に見せたかったのか?」
「うん。良いデートスポットはないかな? って聞いたら、レイラが教えてくれたんだ。ここの公園の眺めは最高ですよ、って」
「なるほど」
笑顔であれこれと教えるレイラさんの顔が思い浮かんだ。
恩人であるユスティーナになら、喜んであれこれと教えただろう。
……行き過ぎて、変なことまで教えていないか、それが心配ではあるが。
「えっと……」
ユスティーナがちらちらとこちらを見る。
なにか頼みたい。
でも、なかなか口にできない。
そんな感じだ。
「どうしたんだ?」
「あのね? もうちょっと、そっちに行ってもいいかな……なんて」
「ああ、そんなことか。構わないぞ」
「ホント!? えへへー」
ユスティーナは満面の笑みで距離を詰めてきた。
そのままぴたりとくっついて……
こちらに寄りかかるようにして、俺の肩に頭を乗せる。
「ふへ」
「えっと……うれしいのはわかるが、女の子として、そんな声はどうかと思うが」
「は!? ちっ、ちちち、違うの! これは、つい、なんていうか……アルト大好き、っていう気持ちが限界突破しちゃって、口から勝手に!?」
「……ぷっ」
あたふたと慌てるユスティーナを見ていたら、とてもおかしくなり、ついつい笑いがこぼれてしまう。
そんな俺を見た彼女は、頬をぷくーっと膨らませる。
「うー……笑うなんてひどい」
「すまない。ただ、馬鹿にしたわけじゃないんだ」
「なら、どういうつもり?」
「色々な表情を見せてくれるユスティーナが、かわいいな……と。それで微笑ましくなり、つい」
「……ふぇ!?」
ぼんっ、とユスティーナが赤くなる。
そのまま、もじもじとして、俺から視線を逸らしてしまう。
……しまった。
今のような台詞、直接、彼女に聞かせたことはほとんどない。
だからこそ、こんなにも照れて、恥じらってしまったのだろう。
せっかくのデートなのに、雰囲気が……
いや、待てよ?
これはこれで、逆にチャンスなのでは?
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