273話 思い出
おいしいものを食べて、綺麗な景色を見る。
伝統工芸品に目を奪われて、舞台に拍手する。
そんな感じで、ユスティーナとのデートを楽しむ。
王都にいる時もユスティーナと二人で遊ぶことは多々あったものの、こうして、ハッキリとデートと断言したことはなかったような気がした。
だからなのか。
いつもと違い、どこか新鮮な気分だ。
今までの何倍も楽しくて……
今までの何倍もドキドキする。
英雄になることだけを考えてきた。
他のものはいらないと、そう思っていたこともある。
でも、それは間違いだ。
この胸の高鳴りは、何者にも変えられない宝物になると思う。
それだけじゃない。
こうしてユスティーナと一緒にいることで、大きく成長できるような気がした。
心がどんどん広く、深く、大きくなるような気がした。
恋をするということも、強くなるためには必要なのだろう。
いや。
強くなるというよりは、人として成長するため、という感じか。
そのことを気づかせてくれたユスティーナには、感謝しかない。
「えへへー、楽しいね、アルト」
「そうだな」
隣を歩くユスティーナは、ずっとニコニコ笑顔だ。
そんな彼女を見ていると、俺もうれしく、楽しくなる。
もっとユスティーナを喜ばせたいと思うものの……
さて、どうしたものか?
そういう方面はまるで勉強してこなかったため、どうすれば女性が喜んでくれるのか、よくわからない。
なにか良いものはないだろうか?
そう思い、周囲を見てみると、とある看板が目に入った。
『メモリーオーブ、特別販売中!』
たくさんの人が足を止めている。
あれはなんだろう?
「アルト、見てみよう?」
ユスティーナも気になっていたらしい。
断る理由もないので、揃って露店を覗いてみた。
「おや。これはかわいい嬢ちゃんと、かっこいい彼氏だ」
「えー、やだー、そんなー。お似合いの彼氏彼女だなんてー」
くねくねと悶えるユスティーナ。
喜ぶ気持ちはわからないでもないが、まだ彼氏彼女じゃないぞ?
「どうだい? 記念に、このメモリーオーブを買わないかい?」
「すまない。そのメモリーオーブというものを知らないのだけど、どういうものなんだ?」
「メモリーオーブっていうのは、絵画に変わる発明品さ。特定の光景を写し取り、いつでも見ることができる、っていう魔道具だよ。ほら、こんな風にね」
見た目は、手の平サイズの水晶玉だ。
覗き込んでみると、海辺で笑う恋人達の姿が見えた。
「わー、すごい! こんな風に見えるんだ」
「これはすごい発明だな」
「メモリーオーブにつき、一つしか保存できませんけどね。でも、その価値はあるでしょう? いつでもどこでも、思い出を振り返ることができる。しかも、鮮明な映像と共に! 二人の大事な思い出を残すには、ピッタリのアイテムですぜ」
「なるほど」
確かに、ピッタリのアイテムかもしれない。
今回の旅行の記念を残しておきたいし、色々な意味で思い出にしたい。
「ユスティーナは、これは……」
「わくわく、わくわく」
エサを前にお預けを食らった犬のような感じで、ユスティーナは瞳をキラキラと輝かせてこちらを見ていた。
言葉にしなくても、なにを考えているかすぐにわかる。
「一つもらおうか」
「へい、まいどあり!」
いい買い物をした。
あとは、このメモリーオーブに一番良い思い出を残したいところだけど……
さて、どのタイミングで使うのがいいのだろう?
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