271話 まだこれから
孤児院を後にした俺とユスティーナは宿へ戻った。
「はふぅ……疲れたぁー」
ユスティーナはベッドにぼすんとダイブ。
そのまま両手足を大きく広げて、体を休める。
疲れているから、そうしたくなるのはわかるのだけど……
そうやって、足まで大きく広げるのはやめてくれないだろうか?
角度によっては、色々と見えてしまいそうだ。
もちろん、見ようとはしないが。
「おつかれさま。なにか飲むか?」
「んー……もうすぐごはんだよね?」
「あと一時間後くらいだな」
「ならいいや。おいしいごはんとおいしい飲み物、セットで楽しみたいからね」
そんなことを言いつつ、全力でだらけつるもりらしく、ユスティーナはベッドの上でゴロゴロと転がる。
だから、そんなことをしたらスカートが……
できる限り紳士であろうとするものの、好きな女の子の無防備な姿には、ついつい視線が引き寄せられてしまう。
これが悲しい男の性だろうか?
「ボクのこと、だらしないって思う?」
「思わないが、その……スカートが……」
「わわっ」
ユスティーナは跳ね上がるように起きて、スカートを両手で押さえた。
赤い顔をこちらに向けて、唇を尖らせる。
「……アルトのえっち」
「す、すまない……」
「ううん、ごめんね。アルトのせいじゃないよね。無防備なボクが悪いんだし……でも、恥ずかしいから、ついつい」
「ユスティーナが気にすることじゃないさ。ただ、まあ……一人というわけじゃないから、周りのことも気にしてくれると助かる」
「うん……」
頬を染めつつ小さく頷いて、
「……もしかして、アルトはボクのパンツに興味があったの?」
ふと思いついた様子で、そんなことを聞いてきた。
「いや、それは……」
好きな女の子の下着に興味がない男はいないだろう。
だからといって、そんなことを正直に答えれば、こんなムードもなにもない状況で告白してしまうようなものだ。
いや。
そもそも、下着に興味があるなんていう告白は、変態そのものではないか?
「……どうだろうな」
具体的な言葉を出せるわけがなくて、適当にごまかしておいた。
「それよりも」
「あ、話を逸らした」
「……それよりも、今回はすまなかった」
謝罪すると、ユスティーナは不思議そうに小首を傾げた。
「せっかくの旅行なのに、思いがけない寄り道をしてしまっただろう? おかげで、いくらかの時間がとられて、事前に立てていた旅行計画も変更しないといけないし……」
「ううん。そのことなら、ボクは怒ってなんていないし、残念に思うこともないよ。むしろ、うれしいかな?」
「うれしい? どうして?」
「アルトがアルトらしいから、だよ」
どういうことだろうか?
「正直なところを言うと、旅行を楽しむ時間が減っちゃったのは残念だけどね。でもでも、アルトは困っている人を見捨てなかった。自分のことのように考えて、最後まで、キッチリと解決してみせた。そうやって、アルトはアルトらしいままで、なにも変わっていないところを見ることができて、ボクはうれしかったかな」
「……そうか」
「それに、これはこれで良い思い出になると思うんだよね。アルトと一緒に悪い領主を成敗……なんだか、物語の中みたいじゃない?」
「そう言われると、なかなか体験できないことだよな」
「だよね? だから、ボクは満足しているよ。これはこれで楽しいし……なによりも、アルトが隣にいれば、なんでもいいもん♪」
ユスティーナがにっこりと笑う。
その笑顔は、まるで太陽のよう。
周囲を輝かせて、元気づけて……
そして、たくさんの人々を惹きつける。
俺も、彼女に惹きつけられた一人なのだろう。
不正に手を染めた領主を捕まえることはできたものの……
それが本来の目的じゃない。
本来の目的は、ユスティーナに告白をすること。
むしろ、ここからが本番と言える。
色々な場面を想定してきたが、先の事件でデートプランは全て白紙に。
また一から考えなければならないが……さて、どうしたものか?
「アルト、どうかしたの?」
「うん?」
「なにか難しい顔をしているけど、悩み事? もしかして、領主のこととか孤児院のこととか、まだ気になっているの?」
「いや、そういうわけじゃないが……どうして、俺が悩みを抱えていると?」
「それは、見ればわかるよ。だって、世界で一番大好きな人のことだもん」
ユスティーナを愛しく想う気持ちがどばっと溢れ出してきた。
今ここで告白してしまいたくなるが、なんとか我慢。
「……大したことじゃないさ」
「そう?」
「それよりも、そろそろごはんの時間だ。準備をしよう」
「うん、そうだね!」
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