268話 追いつめられた悪人はしぶとい
「いい加減に、キミは寝てなさーいっ!!!」
ユスティーナの拳がベヒーモスに刺さる。
最初に倒されて、気絶していたと思えば、再び起き上がり挑んでいたが……
二度目の痛烈な拳をもらう。
巨体が吹き飛び、壁に大穴が開いた。
ベヒーモスが転がる度に、地震が起きたと勘違いするほどに屋敷が揺れる。
そんな中だから、敵はまともに動くことはできない。
揺れ動く床に足をとられ、その場で停止。
ただ、俺は問題ない。
足場が悪いから敵に負けました、なんて情けない話にならないように、学院できっちりと鍛えられているからな。
揺れにすぐに順応して、敵を各個撃破。
そして……
「これで……」
「ラスト!」
ユスティーナと呼吸を合わせて、一際大きな体を持つ男を殴り倒した。
「ば、ばかな……私の兵が、こんな短時間で、しかもあっさりと……ありえんっ、ありえないぞっ!?」
「んー。ありえないとか言うけど、でも、これが現実だよ?」
「もう味方はいない。おとなしく投降しろ」
「ふ、ふざけるなぁあああああ!!!」
領主は血管が破れるのでは? と心配になるほどの声量で叫び……
そのまま逃げ出した。
「えっ、あんな風に叫んでおいて逃げるの!?」
「ユスティーナはレイラさんを頼む! あと、これだけの騒ぎだ。誰かが通報していてもおかしくはないから、憲兵か騎士が来たら、説明を頼む」
「りょーかい!」
うん?
やけにユスティーナの物分りがいいな?
いつもなら、俺と一緒に行く、と言い出すのだけど……
この状況では、ユスティーナが残ることが最適だと理解したのだろうか?
不思議に思うものの、それは少しだけ。
すぐに思考を切り替える。
とにかくも、今は領主を捕まえないといけない。
今更、逃げきれるとは思えないが……
ベヒーモスのような切り札が残っていないとも限らないから、さっさと捕まえた方がいい。
「ひぃっ、ひぃっ……!」
「遅い!」
「や、やめっ……ぎゃあ!?」
普段、まともに運動をしていないのだろう。
息が切れた領主を捕まえることは簡単で、すぐに追いついて、その体を地面に押し倒した。
膝で背中を押さえつつ、片腕を後ろにやり拘束する。
「逮捕……する権限は俺にはないが、このまま逃がすわけにはいかない。憲兵か騎士が来るまで、ここでおとなしくしてもらうぞ」
「くっ……くくく」
「なにがおかしい?」
「この私が、下賤な者に捕まるなんてありえない……」
「言い逃れをするつもりか? でも、それは不可能だ。ユスティーナが、お前の悪事を目撃しているからな。彼女の証言を覆すことはできない」
「今更、裁判で勝てるとは思っておらん……くだらないことで騒ぎ、それで牢に入れられるという屈辱を受けるくらいならば、いっそのこと……!」
領主の目に狂気が宿る。
なにを考えている?
すぐに気絶させた方がいいか?
あるいは……
その迷いがいけなかった。
領主は無理矢理に体を動かして、拘束されていない方の手でなにかをする。
「今、なにをした!?」
「さてな、なんだろうか……くくく、くははははっ」
領主の哄笑に合わせて、屋敷が震えた。
ベヒーモスが暴れた時の振動とは違う。
生き物のように、屋敷全体が揺れていた。
「これは……!?」
「こうなれば、貴様も一緒に死ねっ」
「もしかして、自爆装置!?」
物語では、追いつめられた悪人が全てを抹消しようとするシーンが多々あるものの……
まさか、実際にそれを実行しようとするヤツがいるなんて。
ユスティーナなら大丈夫だ。
レイラさんをキッチリと助けてくれるだろうし、敵対した執事やメイドさん達も助けてくれるだろう。
あの子は、そういう優しい子だ。
ただ、俺は……まずい。
領主が逃げた場所は、屋敷の最深部。
ここから脱出するとなると、それなりの時間がとられる。
それに、そのためには領主を見殺しにしないといけないが……
しかし、悪人だからといって見殺しにするなんていうことは……
「っ!?」
考える時間もなく、天井が崩落した。
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