267話 この二人はいったい……?
・レイラ視点
「覚悟していただきます!」
「ひっ」
執事さんが私に向けてナイフを投擲する。
ただの孤児院の関係者である私に、戦闘力なんてものはない。
どうすることもできず、ただただ恐怖に顔をひきつらせるだけ。
「させないよ!」
エルトセルクさんが間に割り込んで、ナイフを掴んで止めてみせた。
その反応速度もすごいと思うのだけど……
ナイフを素手で掴んで、なんともないところがもっとすごい。
実のところ、彼女が竜という話は話半分に捉えていた。
ウソか……あるいは、ハッタリか。
だって、そうだろう?
竜がほいほいと人の街を訪れるなんて聞いたことがないし、観光地にやってくるなんて話は、さらに聞いたことがない。
ましてや神竜。
冗談と思うのが当たり前だ。
でも、そんなことはなかった。
彼女は本物だった。
圧倒的な力で立ちふさがるもの、立ち向かってくる者を粉砕する。
ただ、その姿は綺麗でもあって……
ついつい見惚れそうになってしまう。
それ以上に驚いたことが……
「ふっ!」
「ぎゃあ!?」
「ひぐっ……」
「うあ……!!!」
メイドに扮したエステニアさんは、エルトセルクさん以上の速度で次々と敵を打ち倒していく。
私は戦闘経験なんてないのだけど……
そんな私でもわかるほど、彼の戦いは洗練されていた。
一つ一つの動作が様になっているというか。
まるで、演武を見ているかのよう。
それでいて力強く、全てを飲み込むほどの圧を感じる。
「……すごい……」
エステニアさんは普通の人間と聞いている。
それなのに、この強さはなんなのだろう?
竜であるエルトセルクさんに引けをとらず、むしろ、同等以上の力を見せている。
ホント、どういうことだろう……?
普通に考えて、そんなことはありえない。
ありえないのだけど……
でも、目の前の現実は変わらない。
「この二人なら、もしかして本当に……」
この街を変えてくれるかもしれない。
領主の不正を正してくれるかもしれない。
そんな期待を抱いてしまう。
その一方で、焦りにも似た感情が湧いてきた。
街と関係のない二人が戦っているのに、私はなにをしているのだろうか?
守られてばかりで、代わりに戦ってもらうだけ。
そんなことでいいのか?
「……ダメ」
いいわけがない。
任せきりで自分はなにもしないなんて、そんなことは認められない。
戦う力がないことは理解している。
足手まといになるだけ。
それでも。
前に一歩、進まないといけない。
勇気を出して、できることしなければならない。
そう信じる。
「よし!」
私は決意を固めて、一歩を踏み出した。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!