262話 バレた
ギギギ……と壊れた人形のように、ユスティーナとレイラがぎこちなく振り返る。
部屋の入り口の近くで初老の執事が微笑んでいた。
孫と接しているかのような朗らかな表情なのだけど……
しかし、その身からは闘気が発せられている。
ユスティーナとレイラをメイドではなくて、賊と認定したのだろう。
「……レイラ」
「……はい」
「逃げるよ!」
「はい!」
ユスティーナは、両手で竜の卵を抱えた。
竜の卵なので、鉄のように頑丈だ。
落としたとしても、そうそう簡単に割れることはないだろう。
だからといって乱暴に扱うわけにはいかない。
しっかりと、抱きしめるように抱えて走る。
「どこへ逃げるというのですかな? 扉はここ一つ。老骨の身ではありますが、私が積んできた経験は……」
「えいや!」
「なっ!?」
ユスティーナは壁を蹴り破り、新しく道を作ってしまう。
道がなければ道を作ればいい。
とんでもない発想に驚いて、執事は初動が遅れた。
その間に、ユスティーナとレイラは、壁に空いた穴から廊下に出た。
そのまま全力で駆ける。
「か、壁を壊してしまうなんて、エルトセルクさんはいったい……?」
「今は気にしないでー!」
「ですが、それだけの力があるのなら、なんとかなるのでは?」
「今はこの子の保護を優先しないといけないから、ちょっと厳しいかな」
同じ竜として、卵を放っておくことなんてできない。
ならば、レイラに担当してもらい、その間にユスティーナが暴れるという方法もないことはないのだけど……
しかし、竜の卵は相当に重い。
ユスティーナは軽々と運んでいるが、それは彼女が竜だから可能なだけだ。
実際は数十キロもあるため、レイラが持ち運び、逃げ回ることは難しい。
「証拠品はゲットした! その資料も見つけた! ここにもう用はないよ、撤収しようっ」
「そうですね。しかし、エステニアさんはどうしましょう……?」
「あ」
ユスティーナが間の抜けた声をこぼす。
竜の卵を発見するという、予想すらしていなかった事態に驚いて、ついついアルトのことを忘れてしまっていた。
ものすごいショックを受けるユスティーナ。
心の中で、ごめんなさい! を繰り返す。
「えっと、えっと……ど、どうしよう!?」
「わ、私に聞かれても……えっとえっと……」
あちらこちらを逃げ回り、二人は完全にパニックに陥っていた。
そうこうしている間に、追手がどんどん増えていく。
他の執事やメイドまで加わり、十数人単位で追いかけてくる。
当初の計画にあった隠密はどこへやら。
大騒ぎだ。
「うー……」
半ばパニックに陥りながらも、ユスティーナは必死で頭を回転させた。
この状況、どう乗り切ればいいか?
アルトがこの場にいれば、自分のことは構うな、と言うだろう。
あるいは、俺が足止めをする、だろうか?
だからといって、愛する人を見捨てるような真似はできない。
しかし、このままではジリ貧なのも確かで……
「ど、どうすれば!?」
混乱するせいで、ユスティーナはいつもの身体能力を発揮できない。
徐々に追手との距離が縮まり……
「待て!」
「逃がしません!」
ついに、追手との距離が数メートルに迫った。
追いつかれるのは時間の問題だ。
もはや、証拠とか関係なしになぎ倒すしかないか?
ユスティーナがそんな物騒な考えを抱いた時、
「そこまでだ!」
「アルト!」
救世主のように、アルトが現れた。
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