260話 おもいがけないもの
ユスティーナとレイラは、仕事をするフリをしつつ、屋敷を調べていた。
すでに遅い時間のため、他の使用人と顔を合わせる機会は少ない。
顔を合わせたとしても、二人はメイドに扮している。
「急な仕事を頼まれてしまって」という言い訳を口にすることで、ほぼほぼ疑われることなく、切り抜けることができた。
そうして調査を続けて……
一時間ほどで、一通りの探索が終わる。
しかし、不正の証拠は見つからない。
「うーん……微妙だね」
「はい、そうですね……」
「微妙な証拠は見つかるんだけど、でも、決定的なものじゃないんだよね」
「領主さまを解任に追い込むほどかどうかと言われると、そうではないという感じですね」
「中途半端にして、退任に追い込むことができなかったり、すぐに復帰されても困るし……うーん」
ユスティーナは頭を悩ませる。
レイラも頭を悩ませる。
簡単に証拠が見つかるとは思っていなかったが……
しかし、ここまで空振りしてしまうというのも予想外だ。
最低限、次へ繋がる情報は得られると予想していた。
ただ現実は、それすらも見つからない。
「アルト、大丈夫かな……?」
「1時間くらいなら問題ないだろう、とは言っていましたが……」
「もう1時間経っちゃったからね……うー、心配だよぉ。変態領主にえっちなことされてないといいんだけど……うーうー」
「えっと……そのような展開になったとしても、途中でエステニアさんが男だと気づくはずなので、問題はないのでは?」
「ううん、油断できないよ。女装したアルトは、ものすっっっっっごくかわいかったからね! 男とか関係なしに、襲われちゃうかもしれないよ。少なくとも、ボクは襲うね!」
そこ、自信たっぷりに言うところなのか。
そんな感じで、レイラは微妙な気持ちになってしまう。
「とにかく、もう少し調査を……」
「しっ!」
ユスティーナはレイラの口を手で塞ぐと、そのまま一緒に物陰に隠れた。
レイラは、何事かと混乱するのだけど……
すぐにユスティーナの行動の意味を理解する。
廊下の先から声が聞こえてきた。
同じ使用人なら、適当にごまかすことは可能かもしれないが……
それでも、どこかでボロが出ないとも限らないし、無用な接触は避けたい。
そう考えて、今度は身を潜めることにしたのだ。
「こちらに来ますね……このままだと見つかってしまいます」
「えっと、どこか隠れる場所は……そこの部屋に隠れよう」
いい具合に扉が開いている部屋を見つけた。
音を立てることなく部屋に入り、そっと扉を閉める。
幸いにも気づかれた様子はない。
声の主は部屋の前を通り過ぎて、そのまま遠くへ立ち去る。
「ふぅ、危なかったね。あの感じ、使用人じゃなくて、領主の家族とかかも。見つかってたら、面倒なことになっていたと思うよ」
「そうですね……でも、こうなると、ますます早く証拠を見つけないと。エステニアさんのことが心配です」
「うん……って、あれ?」
ふと、ユスティーナは部屋をキョロキョロと見回した。
物置として使われている部屋らしく、あちらこちらに物が積まれている。
使わなくなった家具、使用頻度の少ない道具、掃除用具……などなど。
特になんてことのない部屋。
そのはずなのだけど……
「うーん?」
ユスティーナは、妙な感覚を得ていた。
なにかしら気になるものがあるというか、心を惹かれるというか。
言葉にしづらいモヤモヤが心に広がる。
「どうしたんですか?」
「ちょっと、この部屋を調べてみてもいいかな? なんか気になるんだ」
「はい、わかりました」
「ごめんね。急がないといけないのはわかるんだけど、でも、気になるの」
「いえ。もしかしたら、ここに証拠があるかもしれませんし……無駄足にはならないと思います」
「ありがと」
ユスティーナとレイラは物置の探索を開始した。
レイラは、ユスティーナの勘を信じて、隅から隅まで徹底的に調査する。
すると、妙なものを発見した。
「エルトセルクさん、これはなんでしょうか?」
レイラが見つけたものは、両手で抱えなければいけないほどの大きなボールだ。
完璧な球体ではなくて、やや楕円形となっている。
表面は汚れていて、見た目はあまりよろしくない。
普通の人からしたら、なにに使うかまったくわからない、用途不明の代物。
ただ、ユスティーナには、ものすごく見覚えがあるものだった。
「ウソ……これ、竜の卵だよ……」
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