259話 バレたら色々な意味でアウト
領主が俺を気に入ったのなら、あえて、ヤツの懐に飛び込めばいい。
そうすることで、より多くの情報を入手することができる。
あるいは、その機会が訪れるだろう。
その一方で、ユスティーナとレイラさんは別行動をしてもらい、独自に不正の証拠を探してもらう。
領主の注意は俺に向いているはずなので、二人は動きやすいだろう。
一石二鳥の策だ。
問題があるとすれば……
「ひゃっ!?」
「ははは、初心な反応だな」
領主が俺の尻を撫でて、思わず変な声がこぼれてしまう。
思っていた以上に、領主はろくでもない。
部屋に呼ばれ、訪ねてみたのだけど、いきなりボディタッチときた。
かなり慣れた様子で、おまけに罪悪感は欠片もない。
本当にろくでもない……
「えっと……なにか用があると聞きましたが、どうしたのでしょうか?」
メイドになりきり、なんとか笑顔を浮かべつつ、そう尋ねた。
「なに、簡単な話だ」
「簡単な話……ですか」
「私の女になれ」
これはまた、ストレートに来たな。
とても慣れている様子で……
こうして迫るのは初めてではなくて、何度も何度も繰り返してきたのだろう。
というか、俺は女装はしているが男だぞ?
そうとわからないほど、似合っているというのか……?
凹む。
「女になれ……ですか」
「そうだ。それなりに良い思いをさせてやろうじゃないか。欲しいものがあれば買い与えよう。それに、私を予想以上に楽しませることができたのなら、その時は、側室として迎えてもいい。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」
「えっと……」
俺は女装をしているが、見た目の年齢はさほど変わっていないはず。
15前後に見えるだろう。
そして、領主は40を超えているはず。
25も下の相手に迫るなんて……
これはもう、思っていた以上に腐っているのかもしれない。
一瞬ではあるが、ユスティーナが言っていたように、屋敷ごと吹き飛ばしてもよかったのではないか?
そんなことを考えてしまう。
「えっと、それは……」
「どうした、なぜ迷う? 良い話でしかないと思うが」
「そ、そう言われましても、その……」
女装している俺に迫るな。
ニヤニヤとした笑みを向けるな。
なんとか笑顔を保っているものの、内心では絶叫していた。
ユスティーナとレイラさんが他を探っている間、なんとか、領主の注意を逸らしておきたいのだけど……
しかし、これは厳しい。
妙な汗が流れて、今まで味わったことのない恐怖で体が震えてしまいそうだ。
「キミもそのつもりだったから、私の部屋にやってきたのだろう?」
「ひゃ!?」
肩を抱かれ、思わず変な声がこぼれてしまう。
バレたか?
なんて警戒をするのだけど……
「いいぞ、実にいい。そうやって恥じらう姿はたまらないな。今までは、羞恥心を捨てたろくでもない女ばかりを相手にしていたから、うんざりしていたところだ。やはり、女はこうでないとな」
「は、はぁ……」
この男、かなり強引に事を進めているみたいだ。
地位や金を得るために、己を武器とする女性は確かに存在する。
しかし、そうでない女性も、もちろん存在する。
そんな女性に対して、無理矢理に関係を迫っていた疑いが強い。
もしもユスティーナが強引に迫られたら?
ふと、そんな想定をして……
どうしようもない怒りがこみ上げてきて、領主を殴り倒したくなってしまう。
この男、どうしようもなさすぎる。
救えない。
さて……どうするか?
「さあ、楽しい時間を過ごそうじゃないか」
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