26話 秘密特訓!
ユスティーナの特訓のおかげで、身体能力ならジャスに負けてはいないと思う。
ただ、戦闘技術となるとかなり怪しい。
準備に一日を費やしたため、次の実技訓練まで2日。
短いが、それまでになんとかしなければいけない。
というわけで……
かなり荒っぽい方法がとられることになった。
場所は街の外だ。
街は結界で守られているため安全だけど、外に出ると魔物の脅威に晒されることになる。
そのため、許可なく街の外に出ることは禁じられている。
外に出ることが許されているのは、街と街を行き来する商人や、その護衛となる騎士たちくらいだ。
その他、例外はあるものの、基本的に外に出ることは許されていない。
許されていないのだけど……
「ユスティーナ、大丈夫なのか?」
「うん、なにが?」
「いや……ユスティーナの一言で、俺たち、外に出ることができただろう? 街の騎士に対してもそんなことをして、後で問題にならないのか心配だ」
あらかじめユスティーナが話を通していたらしく、俺たちは問題なく街の外に出ることができた。
行動が速い。
ただ、ユスティーナに迷惑をかけていないか。
それが心配だ。
「大丈夫だよ。昨日のうちにお父さんとお母さんには話をして、ちゃんと許可をもらっているから。あと、あちこちに話を通しておくようにお願いもしたから、問題になることはないよ」
「そうか……なんか、いつもすまない」
「ボク、別の言葉が聞きたいなあ?」
「ありがとう、ユスティーナ」
「うん、どういたしまして!」
ほんのりを頬を染めながら、ユスティーナが笑顔を見せた。
俺の力になれることがうれしくてたまらないらしい。
ものすごく健気なので、少し心を動かされてしまう。
「あーら、見ましたか、奥さん。あの二人、ラブラブですわよ」
「ええ、ラブラブですわね。見ているこっちが胸焼けしそうですわ」
グランとジニーがよくわからない方法でからかってくる。
「えへへ、ラブラブだって。ねえねえ、アルト。どうする? ボクたち、ラブラブだって。えへへ」
ユスティーナはうれしいらしく、くねくねと悶えていた。
俺は……ノーコメントだ。
とにかくも、本来の目的である特訓をしなければいけない。
街の外に出た俺たちは、そのまま街道を外れて、なにもない平原へ移動した。
「ん?」
今、俺たち以外の人影が見えたような……?
黒い影が視界の端で動いていたような気がする。
でも、そんなことはない。
街の外に出る人なんて、ほとんどいない。
気のせいだろう。
街道には簡易的な結界が設置されている。
街に設置されているような強力なものではないが、大したことのない魔物は追い払うことができる。
ただ、平原にはそんなものは設置されていないため、ちらほらと魔物の姿が見えた。
スライム、ウルフ、ゴブリン……色々だ。
基本、魔物は人を襲う。
人に限らず、同族以外を全て敵と見なして襲いかかる。
しかし、なにも考えていないわけではない。
野生動物と同じように、本能的に危機を察することができるらしい。
ユスティーナがいるせいか、魔物たちは遠巻きにこちらを眺めるだけで、襲いかかってこようとはしなかった。
「じゃあ……ユスティーナ、頼む」
「はーい!」
元気よく返事をすると、ユスティーナは俺たちから離れて……
光を放ちながら漆黒の竜に変身……いや、元に戻る。
そのまま一気に空に飛び上がる。
豆粒ほどの大きさに見えるほど、高く高く遠く遠く舞い上がり……
そこから一気に急降下。
その巨体を見せつけるように翼を広げながら、竜の咆哮を響かせた。
魔物たちが一斉に恐慌状態に陥った。
突然、全ての生き物の頂点に立つ竜に脅かされれば、当たり前の反応である。
ユスティーナに追い立てられて、周囲の魔物全部が暴走する。
その行き先は……こちらだ。
迎え撃つのは、俺一人。
手にするのは、訓練用の槍。
攻撃力はほぼほぼないが、耐久性だけは抜群だ。
この槍で、恐慌状態に陥り、暴走している魔物の群れを相手にする。
……それが、俺が強くなるための特訓だった。
「はあああっ!!!」
暴走状態の魔物たちを迎え撃つ。
ここは王都に近いため、騎士たちによって、ちょくちょく魔物の討伐が行われている。
そのため、強い魔物は存在しないが……
「くっ!?」
竜に追い立てられて、命の危機を覚えている魔物たちは、生き延びるために普段は隠されている力をむき出しにしていた。
いわゆる、火事場の馬鹿力だ。
そのため、低級な魔物でもとんでもない力を発揮している。
しかも、一匹だけではなくて、複数の群れ。
それらを一度に相手にしなければいけない。
……これが、短期間で戦闘技術を身につけるための特訓だった。
文字通り命がけの魔物の群れを、一人で相手にする。
否が応でも戦闘技術は鍛えられるだろう。
危険な行為だ。
一歩間違えれば大怪我を追うし……
下手をしたら死ぬ可能性もある。
それでも、短期間で強くなるためには仕方のないことだ。
それくらいのリスク、覚悟を背負わないといけない。
「だが、さすがに厳しいな……!」
恐慌状態に陥り、パワーリミッターが解除された魔物たちが、視界を埋め尽くすような勢いで押し寄せてくる。
槍で薙ぎ払い、一度、敵の動きを止め……止められない!
津波のように抗うことができず、魔物の群れに飲み込まれてしまう。
「このっ!」
槍を地面に突き立てるようにして、後方に跳ぶ。
再び魔物の群れが食らいついてくるが、今度は、焦ることなく一匹ずつ的確に仕留めていく。
まずは数を減らすことで、少しでも敵の進軍の勢いを止める。
突いて。
払い。
薙いで。
穿ち。
ありとあらゆる方法で魔物たちを殲滅していく。
戦えば戦うほど、技術が研ぎ澄まされていくのがわかる。
ここで成長できなければ、文字通り……終わりだ。
故に、こちらも必死になる。
「くっ……!?」
訓練用の槍はかなり頑丈に作られているはずなのだけど、大量の魔物を相手にしたことで、さすがに限界が訪れたみたいだ。
矛先が砕けて、柄も半ばからへし折れてしまう。
武器を失い、絶体絶命のピンチに陥るが……
「よっしゃ、そろそろ俺の出番だな!」
「兄さんっ、一人で突っ走らないの!」
後方で様子を見ていたグランとジニーが前に出た。
俺に替えの槍を渡すと同時に、二人がかりで魔物の進軍を食い止める。
その間に、俺はわずかな休憩をとる。
グランとジニーは、今のような予定外の事態が起きた時の対処要員だ。
俺が立て直すまでの時間を稼いでくれる。
あと、本当にマズイ時になった時は撤退を手伝ってくれる。
いわば保険だ。
この特訓がかなりの無茶だということはわかっている。
だからこそ、グランとジニーという保険を用意させてもらった。
いくらなんでも、無策で無茶をするわけにはいかないからな。
「ふう……よし、もう大丈夫だ。グラン、ジニー。交代だ」
「もう平気なのか?」
「もっと休んだ方がいいんじゃない?」
「いや、大丈夫だ。それに、今はわりと調子がいい。色々と掴めそうな気がするから……このまま、限界まで突き進みたい」
「ったく……アルトって、実は頑固者だよな」
「危なくなったら、いつでも言ってね。また私たちが時間を稼ぐから」
「ああ、頼む」
再び前線に立つ前に、空で滞空して様子を見ているユスティーナに声をかける。
「ユスティーナ、もっと魔物を追い立ててくれ」
「大丈夫なの? アルト、あちこちに怪我を負っているよね?」
「まだ大丈夫だ。いける」
「むぅ……すっごく心配だけど、でもでも、男の子にはやらなければならない時があるって、お母さんが言ってたし……そういう時は、黙って支えるのがいい女って言ってたし……わかったよー! もっともっと追い立ててくるね」
ユスティーナは了解というように、その場で軽く旋回すると、彼方へ飛んだ。
ここらの魔物はあらかた表に誘い出したため、さらに奥へ移動したのだろう。
「さて……やるか」
グランとジニーと交代して、俺は再び魔物の群れを相手にする。
強くなるために。
ジャスとの勝負に勝つために。
ひたすらに自分を追い込み、鍛えていく。
俺は、全力で……それでいて無心で槍を振るい続けた。
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