257話 潜入初日
俺たちは、さっそく領主の屋敷を訪ねて、そこで働きたいと話した。
人手が足りていないという話は間違っていなかったらしく、仮採用。
そのまま、すぐに働くことになった。
俺たちに与えられた仕事は、誰にでもできるような掃除だ。
一部、美術品などは専用の道具を使わないといけないらしく、苦戦したものの……
それ以外は大した労力はなくて、問題なく仕事をこなすことができて、そのまま正式採用となった。
そして、夜。
仕事を終えた俺たちは、メイドたちに与えられた部屋に移動する。
メイドたちは住み込みで働いているらしく、部屋が与えられていた。
ただ、一人一部屋というわけではなくて、数人がまとめて同じ部屋で寝泊まりをしている。
俺とユスティーナとレイラさんは、同時期に入ってきたメイドということで、全員、同じ部屋。
都合の良いことに他のメイドはいない。
これなら、気軽に相談することができる。
「まずは、おつかれさま。ユスティーナもレイラさんも、慣れないメイドの仕事で疲れていないか?」
「ううん、ボクは大丈夫だよ。メイドさんの仕事も普段はやることがないから、新鮮で、ちょっと楽しかったくらい」
「私も、似たようなことは毎日しているので……はい、特に問題はありません」
「そっか、それならよかった」
女性は強いな。
俺なんて、慣れない仕事でかなり疲れてしまったのだけど。
……まあ、女装なんてものをしているせいで、精神的疲労が大きく、それでうまく動くことができなかったという理由もあるが。
「みんな、仕事はきちんとこなしていたから、疑われていることはないと思う」
「うん、そうだね。潜入初日としては、うまくいった、って言っていいんじゃないかな?」
「ただ、領主さまの不正に関する情報を得ることはできませんでした……」
レイラさんは落ち込んだように言うが、それは仕方ないと思う。
まだ潜入初日。
それなのに、いきなり証拠を掴むことはできないだろう。
まずは、疑われることなく内部に溶け込んで……
それから、周囲の信頼を得て、情報収集。
そして証拠を掴む……という流れが理想的、というか、それ以外の道筋はないだろう。
ただ、それだとあまりに時間がかかってしまう。
俺とユスティーナは、もうしばらくはここに滞在することはできるが……
学院もあるため、ずっとというわけにはいかない。
できることならば、短期決着が望ましい。
「それで、今後のことだけど……」
どのようにすれば、短期決着が可能か?
それを話し合おうとしたところで、扉をノックする音が響いた。
「はい、どうぞ」
扉が開いて、やや肥満気味の男が姿を見せた。
直接、顔を合わせたことはないが、見覚えがある。
屋敷の中に肖像画が飾られていた。
つまり、この男こそが……
「キミたちが、新しく我が屋敷で働いてくれることになったメイドかな?」
グレイハウンドの領主、トーダン・アバラシア。
俺たちのターゲットだ。
「はい。私は、アルマ・スティーニアと申します」
「ボ……私は、ユエル・セルトっていいます」
「レイ・ミエルシアです」
俺たちはすぐに姿勢を正して、メイドらしくお辞儀をした。
なぜか、俺はそこそこ名前が知られているらしいし……
領主ともなれば、ユスティーナのことを知っている者もいるかもしれない。
直接の対面はないだろうが、名前くらいは聞いたことがあるだろう。
なので、偽名を使うことにした。
「ああ、気を使わないでくれ。キミたちは仕事をして、疲れているだろう? 気を使う必要はないさ」
「しかし……」
「私も堅苦しいのは嫌いでね、本当に気にしないでくれ」
「……かしこまりました。旦那さまのお心遣い、感謝いたします」
淑女らしく振る舞い、頭を下げる。
……自分でやっておいてなんだが、淑女らしいというのはとても疲れる。
それに、うまくできているかどうか、とても不安だ。
「ふむ」
トーダンが、じっと俺を見つめてきた。
ユスティーナやレイラさんをまるで気にかけていない。
俺だけを、じっと見つめている。
まさか、女装がバレたのか……?
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