254話 恥知らずでありたくない
「ま、待ってください」
ある程度の方針が固まったところで、話を聞いていたレイラさんが、慌てる。
「領主さまに剣を向けるような真似をしたら、ど、どうなるか……!」
「大丈夫! ボクたち、こう見えてもかなり強いんだよ?」
ユスティーナが、任せてというような感じで、どんと胸を叩く。
彼女は竜の王女。
単純な力で言えば、ユスティーナに勝てる者はごく一部だけだ。
そして王女でもあるため、権力も持っている。
そんなユスティーナをどうにかできる存在なんて、ほぼほぼいないのだけど……
レイラさんはまだそのことを知らないため、ものすごく慌てていた。
「お二人が私たちのために怒ってくれることは、とてもうれしく思います。しかし、領主さまに歯向かうなんてことはしないでください。無事で済むとは……」
「ボクたちなら、ホントに平気だよ? えっと……そうそう。この前、王都で開かれた戦術武闘大会、って知ってる?」
「え? あ……はい。噂程度には」
「アルトは、その優勝者なんだ」
「えっ」
「ついでに言うと、ボクは準優勝者で……」
おもむろに、ユスティーナは財布から銅貨を取り出した。
人差し指と親指で挟んで、
「えい」
ぐにゃり、と銅貨を曲げてしまう。
当たり前のことではあるが、普通の女の子にできる芸当ではない。
レイラさんは目を丸くして、言葉が出ないほど驚いていた。
「こんな感じで、ボクもそれなりに強いんだ」
「それなりに、というか……相当という言葉をつけた方がいいのでは?」
「でもでも、アルトの方が強いからね。えへへ。だから、いざという時は守ってね」
大会で優勝してから、少しユスティーナの態度が変わった。
これまでは、ボクが守ってあげるからね、というような言動が多かったのだけど……
最近では、ボクを守ってね、という発言が目立つように。
真剣勝負で俺がユスティーナに勝利したことが影響しているのだろう。
二度やれと言われても相当に厳しく、間違ってもユスティーナよりも強いなんてことは言えないが……
しかし、一人の男として、好きな女の子に頼りにされることはうれしい。
時代錯誤と言われるかもしれないが……やはり、守られるよりも守りたいからな。
「それと、大丈夫だよ」
「え?」
「ボクたちは勝手に動くだけだから、万が一失敗したとしても、この孤児院に迷惑はかけないから」
「あ……」
レイラさんが気まずそうに目を逸らす。
いざという時、自分たちに被害が及ぶことを恐れていたのだろう。
そして、その不安をユスティーナに指摘された。
ただ、それは恥じることではないし、後ろめたく思うことでもない。
当たり前の不安だ。
なにも知らない俺たちが、領主の不正を暴くという。
ただし、失敗すればそれなりの混乱を招いて、領主の怒りも買うわけで……
巻き込まれるのでは? と思うことは当然のことだ。
信じて欲しいなんて無責任なことは言えない。
だから代わりに、行動で示そうと思う。
「それじゃあ、アルト。行こうか」
「そうだな。もしかしたら、ここにいることで孤児院に迷惑をかけてしまうかもしれないし……念には念を入れておこう」
「じゃあ、またねー。ちょっとでいいから、期待してくれるとうれしいな」
俺とユスティーナは孤児院を後にしようとして、
「ま、待ってください!」
レイラさんに引き止められた。
「私も、その……な、なにか協力をさせてください!」
「え? でも……」
「レイラさんの気持ちはうれしいですが、でも、やめておいた方がいい。もしも俺たちに協力したことが領主にバレたら……」
「それでも!」
レイラさんは、俺の言葉を途中で遮る。
その瞳には強い意思が宿っていた。
「私たちのために危険を犯してくれる二人の味方をしないで、安全なところから見物するなんていう、そんな……そんな恥知らずではいたくありません!」
「……レイラさん……」
「正直なところ、恐ろしいですし……そもそも、私にできることがあるのかどうか、わかりません。それでも、戦うのなら一緒に戦わせてください。それが、この街に生きる私の義務です」
グレイハウンドは、悪徳領主によって食い物にされているらしいが……
でも、レイラさんのような人がいるなら、まだ大丈夫。
ふと、そんなことを思えた。
「ユスティーナ」
「うん、ボクはいいと思うよ」
こちらの言いたいことをすぐに察してくれて、ユスティーナは笑顔と共に頷いた。
「よろしくお願いします」
「はい」
俺とレイラさんは、力強い握手を交わすのだった。
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