253話 経営難の孤児院
話を聞くと、孤児院は自給自足を目指していたらしい。
街の清掃、簡単なアクセサリーの製作と販売、店の手伝い……などなど。
小さい規模ではあるものの、仕事をしていたらしい。
大して収入は得られないものの、そこは人数でカバー。
街からの補助金もあり、なんとかやっていくことができたという。
しかし、少し前に状況が一変する。
まず、補助金が打ち切られた。
さらに街の命令で、子供たちの雇用にストップがかけられた。
それらの理由は、そのようなことをされては、観光地としての街の名に傷がつくから……らしい。
仕事ができなくなり、補助金も打ち切られた。
収入はゼロ。
蓄えもなく、日々の食事にも困り……
そして腹を空かせた子供たちは我慢することができず、ついには盗みを……という顛末らしい。
「なにそれっ!!!」
教会の中で話を聞いていたのだけど、ユスティーナは怒りをあらわにして、強く言う。
その勢いのままテーブルを叩こうとするが、それは阻止。
ユスティーナがそんなことをしたら、テーブルを粉砕してしまう。
「仕事を取り上げて補助金も打ち切るなんて、餓死しろって言ってるようなものじゃない! それ、全部領主の命令なんだよね? どうしてそんなことを……」
「おそらく、領主さまは……私たちのことが目障りなのかと」
「目障り?」
「この街は、見ての通り華やかな観光地です。そこに、孤児院があると……」
「景観や雰囲気を損ねる……か」
わからない話ではないが、しかし、納得はできない。
景観や雰囲気を損ねる可能性があるのなら、そうならないようにフォローをするべきだ。
教会を改修したり、子供たちに観光地の仕事の手伝いをさせたり。
うまい具合に並ぶべきであり、排除するなんて考えはもっての他。
「こんな政策、アルモートでは……王は許さないと思うのだけど」
「このグレイハウンドの領主の力は強く、噂ではありますが、情報を統制しているのだとか……」
「いいように街を自分のものにしている、というわけか」
領主は一つの街を統治するため、かなりの権限を与えられている。
その力を適正に行使しなければいけないが……
ごくまれにではあるが、力を好き勝手に使っていいと勘違いする者がいる。
自分に与えられたものだから好きにしていいと、理屈にもなっていない言葉を並べる者がいる。
今回のケースは、それなのだろう。
「……へぇ、そんな馬鹿な人間がいるんだ」
ユスティーナが笑っていた。
しかし、いつもの太陽のような明るいものではなくて、冷たく、凍えるような笑みだ。
彼女はアルモートの者ではないが……
しかし、同盟国の王女という立場だ。
自分の国ではないとはいえ、好き勝手なことをされれば気分はよくないだろう。
「うーん、どうしようかな……?」
「ユスティーナ? なにを考えているんだ?」
「えっとね、焼き払おうか殴り倒そうか、どっちがいいかなー、って」
「……一応、聞いておくが、どこを焼き払い、誰を殴り倒すつもりなんだ?」
「領主の屋敷と、領主」
「やめてくれ……」
「アルトは、こんなことを見逃していいの!?」
「そういうわけじゃないさ、なんとかしたいと思う」
ユスティーナと二人きりの旅行の最中ではあるが、それはそれ。
このような理不尽を見つけて、そのままにしておくことはできない。
ただ、いきなり殴り込みをかけるわけにはいかない。
証拠もなしにそんなことをすれば、逆にこちらが罪に問われてしまう。
……いや?
ユスティーナは竜の王女だから、罪に問われない可能性もあるのか?
だとしたら、彼女の言う通り、即実力行使に出ても……
「いやいやいや」
頭を振り、物騒な思考を追い払う。
ユスティーナと一緒にいることが多いせいか、どうも、思考が毒されているような気がした。
彼女の大胆な発想は悪いものではないと思うが……
俺も、同じようなことを考えてはいけない。
ユスティーナのストッパーであり、サポートをする立場になって、別の思考を持たないと。
「それじゃあ、どうするの?」
「グレイハウンドの領主が無茶苦茶しているという証拠を探そう。そして、こちらの正当性をしっかりと確保した上で……叩く」
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