25話 友達だから
「……と、いうわけなんだ」
放課後。
話が他に漏れないように、寮の部屋にグランとジニーを招いて、ジャスから申し込まれた勝負の話をした。
もちろん、この場にユスティーナもいる。
ユスティーナはふんふんと話を聞くと……
「うん、わかったよ。それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「まった。どこへ?」
「もちろん、そのジャスとかいうやつを焼き払いに♪」
かわいい顔とかわいい声で、おそろしいことを言わないでほしい。
「今回は俺に任せてくれないか?」
「えー、でも……」
「ユスティーナが俺のことを考えてくれるのはうれしいよ。でも、いつまでも頼ってばかりではダメだ。俺は強くなりたい」
「……アルト……」
「それと、ユスティーナには他のことを頼みたい」
「他のこと?」
「グランとジニーの周囲を警戒してくれないか?」
十中八九、飛翔訓練の事故はジャスの仕業によるものだろう。
あらかじめ人を雇い、グラウンドの近くに潜ませておいて……
タイミングを見計らい、竜の翼を傷つけて事故を発生させた。
そんなところだろう。
ジャスは俺の退路を断つために、ジニーを狙った。
それを脅しとしてきた。
勝負までの間に……また、勝負の最中に同じことが起きないとも限らない。
それを防ぐために、ユスティーナは二人を守ってほしい。
そんな話をした。
「なんだよっ、それ! あれがラクスティンの仕業だってのか!」
「証拠はないけどな。たぶん、うまい具合にやっているんだろう」
「でも、完全犯罪なんて難しいし、ちゃんと調査をすればラクスティンの犯行っていうことを突き止められるんじゃない? あるいは、エルトセルクさんが声をあげてもいいし……どちらにしろ、そうすれば勝負をするまでもなく、ラクスティンを追放できると思うんだけど」
ジニーの言うことはもっともだ。
時間はかかるかもしれないが、学院から追放できると思う。
ただ、判決が下るまでに、ジャスが再びやらかさないという保証はないし……
追放した後、逆恨みで事件を起こすかもしれない。
そうならないように、俺自身がヤツと戦わないといけない。
徹底的に叩きのめして……
もうコイツに関わるのはごめんだ、という敗北意識を叩き込まないといけない。
そしてなによりも……
「俺は、ジャスが許せない。ジニーを……友達を傷つけたジャスを許せない。だから、これは私怨による私闘だ。正しい方法とか理屈とか関係なしに、ジャスと戦いたい。ここで引き下がるわけにはいかないんだ」
ユスティーナの力を借りれば、ジャスを潰すことは簡単だ。
後腐れなく、一切の問題もなく、この事件を解決できるだろう。
しかし、彼女になにもかも甘えるわけにはいかない。
友達が傷つけられて、そのために立ち上がることもしないなんて……
それは、男してダメだろう?
「うんっ、アルトの気持ちはわかったよ! 友達のために自分の力で戦う……それでこそ、ボクが好きになった男の子だよ。すごくかっこいいと思うな」
ユスティーナは、ひとまずこの件を俺に預けてくれる気になったみたいだ。
いざという時は動くつもりなのだろうが……
手を煩わせることのないようにしないといけないな。
「そういうことなら、同じ男としてアルトのことは止められねえな」
「私が言うことじゃないけど、私の仇、とってね!」
「ホントにジニーが言うことじゃねえな」
「うっさい、バカ兄」
「ぐはっ!?」
ジニーのチョップがグランの喉に突き刺さる。
それ、まずいのでは……?
「ごほっ、ごほっ……しかし、ラクスティンが相手か……」
グランが難しい顔になった。
「俺も詳しくは知らんが、ラクスティンって、学院で上位の成績優秀者だよな? 座学も実技もトップ10入りしてなかったか?」
「うん、それは間違いないわ。私も、どこかで見た覚えがあるもの」
「確か……5位だよな? うん、話してるうちにだんだん思い出してきたぞ」
「アルト君は11位だから……普通に考えると厳しいわね」
ジニーも眉をひそめた。
ただ、ユスティーナは笑顔のままだ。
「厳しいなんて、そんなことはないんじゃないかな? 試験のアルトの実力、見たでしょ?」
「相手を思い切り吹き飛ばしてたよな……アルトって、実は無茶苦茶強かったのか?」
「ランク外だったから、対戦相手の組み合わせ次第では、あまりポイントを稼ぐこともできないし……実は11位以上の力がある、っていうこと?」
「うん。ボクはそう考えているよ。この学院にどんな実力者がいるのか、それはよくわからないけど……ラクスティンっていうのよりは、間違いなくアルトの方が強いと思うよ」
ユスティーナは俺のことを強いというが……
そんなことはない。
ユスティーナに鍛えられたおかげで、確かに、身体能力は上昇した。
自分でいうのもなんだけど、かなりのところに到達していると思う。
ただ、それだけなのだ。
身体能力がすごいというだけで、戦闘技術は一切上昇していない。
そこらの無名の相手ならば、身体能力だけで力押しできるだろう。
しかし、学院5位のジャスが相手となると話は別だ。
技術は時に力を上回る。
無策で挑めば、撃退される可能性が高いだろう。
そんな考えをみんなに伝えた上で、お願いをする。
「次の実技訓練は3日後……それまでに、なんとかしないといけない。だから……グラン、ジニー。そして、ユスティーナ。俺の特訓に付き合ってくれないか?」
「おう、いいぜ」
「私でよければ」
「もちろんだよ!」
三人とも即答だった。
ユスティーナは応えてくれると思っていたが……
グランとジニーも、迷うことなく頷いてくれるなんて。
言ってみれば、これは俺のわがままだ。
戦う以外の解決方法があるし、そうした方が簡単で手っ取り早い。
しかし、それではダメなのだ。
助けてもらってばかりじゃなくて、自分の手で乗り越えないといけない。
いや、特訓に付き合ってほしいなど、結局助けてもらっているのだが……
それでも、最後は自分の手で立ち向かわないといけない時がある。
ジャスの件は、自分自身で乗り越えないと、俺は先に進めなくなる。
そう思っていた。
「いいのか……? 俺のわがままに付き合ってもらうなんて……」
「なに言ってるんだよ」
グランが呆れたような、それでいて笑みを浮かべて言う。
「誰かを助けるのに理由なんていらないんだろ?」
「あ……」
「ましてや、アルトは俺の友達だ。なおさら、付き合うのに理由はいらねえだろ」
「そういうこと。私も無関係じゃないし……アルト君のためなら、一肌脱ぐよ」
グランとジニーの兄妹は、頼もしい笑顔でそう言った。
「脱ぐ!? ちょっと、ジニー! ボクのアルトを誘惑しないでっ」
「……実は、前々からアルト君って、いいなあって思ってたのよね。エルトセルクさんは、まだ彼女ってわけじゃないんでしょ? なら、ちょっとくらい、いいでしょ」
「むぐぐぐっ」
見事にユスティーナが勘違いをして、調子に乗ったジニーが悪ふざけをする。
そんな光景も、どこか微笑ましい。
みんな力を貸してくれている。
ならば、俺も期待に応えないといけない。
ジャス……お前には、絶対に負けない。
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