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248話 温泉街

「お? おぉ……おー!」


 ユスティーナは最初に驚いて、次に納得して、最後に感動するような声をこぼす。

 その反応も納得だ。


 街は白い煙で包まれていた。

 火事? と慌てるのだけど……

 実はそんなことはなくて、街の至るところから湧き上がる温泉の湯気なのだ。


 グレイハウンドは、ちょうど、多数の温泉脈が集結する真上に建っているらしい。

 そこに目をつけた人々は、温泉街として街を改造。

 どこでも誰でも気軽に温泉に入れるような観光地となり、大勢の人で賑わうようになった。


 人気は高く、値段もそれなりにする。

 なかなか足を運ぶことはできないのだけど、今回はチケットのおかげで問題はない。


 俺の力がユスティーナに届くかどうか、それを確かめるために大会に出場した。

 チケットはおまけのようなものだけど……

 こうしてグレイハウンドにやってくると、チケットを手に入れることができてよかった、とも思う。


「ねえねえ、アルト。いっぱい宿があるね! わぁー!」

「はしゃぐ気持ちはわからないでもないが、迷子にならないでくれ」

「ボク、そんなに子供じゃないよー、もうっ」


 ユスティーナは唇を尖らせるものの、すぐに機嫌をよくして笑顔になる。


「大きいところから小さいところまで、宿、いっぱいあるねー」

「国で一番の温泉街だからな」

「でも、同じ温泉脈を使っているなら、温泉も全部同じ?」

「いや、そういうわけじゃないらしい」


 事前に、観光案内のパンフレットに目を通したが……

 温泉脈は一つではなくて、ありとあらゆる温泉脈が集結しているらしい。

 それらを別々に利用しているため、宿によって温泉の効能が違うのだとか。


「へー。じゃあ、宿によって色々な温泉を楽しむことができるんだ。全部の宿を巡ってみるのも楽しいかもしれないね」

「確かに楽しいかもしれないが、さすがに、そんな金はないぞ」

「残念。ねえねえ、ボク達が泊まる宿の温泉は、どんな効能が?」

「えっと……確か、オーソドックスに疲労回復だったかな。あと、美容に良いとも書かれていた気がする」

「美容!」


 ユスティーナも、やっぱり女の子。

 美容に良いと聞いて、目をキラキラと輝かせていた。


「いいなー、温泉最高だなー。アルト! 今すぐ、温泉に入ろう。ゴーゴー!」

「まった。まだチェックイン時間になっていないから、今、宿に押しかけても温泉に入ることはできない」

「そうなんだ……うぅ、残念」


 落ち込むユスティーナを見ていると、なんとかしてあげたいと思うが、さすがにこればかりは……ん?


 そうだな。

 アレなら温泉の代用になるかもしれない。


「温泉は無理だけど、足湯を楽しまないか?」

「足湯?」

「ほら、あそこだ」


 屋根がついたところに、味わい深い木のベンチが並んでいる。

 その足元に溝が掘られ、湯気を立てる温泉が流れていた。


「足を浸けて、ゆっくりとのんびりと休むところらしい」

「足だけ温泉に入ってもなー、うーん」


 なんて、渋い顔をしていたユスティーナだけど……


「おっ、おおおぉ!? すごいすごい! なんか体の芯からぽかぽかしてきて、それに、すごく気持ちいいし……足湯って、すごくいいね!」


 一度試してみたら、すぐに足湯の虜になってしまったらしい。

 目をキラキラと輝かせて、温かい温泉を足で楽しんでいる。


 俺も隣に並んで足湯を堪能するが……なるほど。

 これは、確かに気持ちいい。

 旅の疲れが一気に吹き飛んでいくかのようだ。


 それにしても……と思う。


 ちらりと隣を見ると、素足を晒したユスティーナが。

 彼女の足はスラリと伸びていて、白く、染み一つない。

 とても綺麗で、ついつい視線が吸い寄せられてしまい……


 なぜか、無性にドキドキしてしまう。


 って、俺はなにをしているんだ?

 女の子の足を見てドキドキするなんて、変態じゃないか。


 いや、しかし、相手が好きな女の子なら、ギリギリセーフなのか?

 ユスティーナに聞いたとしても、なんとなく、許してくれそうな気がする。

 むしろ、喜んで足を見せつけてくるような気がする。


 そんなことはしないが。


「アルト?」

「な、なんだっ?」

「なんか難しい顔してたけど、どうかしたの?」

「いや、なんでもない」


 ユスティーナの足について考えていた。

 ……なんてこと言えるわけがなくて、適当に言葉を濁しておいた。


「ねえねえ、アルト」

「うん?」

「ありがとうね」


 ユスティーナは、笑顔でお礼を言う。

 はて?

 お礼を言われるようなことはしていないが。


「どうしたんだ、いきなり?」

「ボクと一緒に旅行に来てくれて、ありがとう。いつものアルトなら、二人きりだとボクに変な期待を与えるかもしれないとか、そういうところを気にしていたと思うし……てっきり、みんなで旅行に行くと思っていたんだよね」

「それは……」


 ユスティーナに告白するつもりだから。

 ……なんていうことは、やはり言えるわけがない。


 いや。

 今回の旅行で告白するつもりではあるが、タイミングというものがある。

 旅行初日、足湯に浸かりながら、というのはあまりにもムードがないだろう。

 朴念仁であるという自覚がある俺ではあるが、さすがに、それくらいの情緒はわかる。


「たまには……二人でもいいんじゃないか、と思ったんだ」

「そっか。うん、えへへ、うれしいな。アルトと二人きりだ♪」


 ふにゃりと、ユスティーナが優しく笑う。

 頼むから、そんな顔はしないで欲しい。

 色々と心が揺らいでしまう。


「アルト」

「うん?」

「今回の旅行、めいっぱい楽しもうね」

「そうだな」

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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