247話 二人だけの旅行
ガラガラガラと馬車の車輪が鳴る音が響く。
目的地は、山間部にある街、グレイハウンド。
緑豊かな観光地で、コルシアと同じくらいの人が訪れているのだとか。
旅行ペアチケットを獲得した俺とユスティーナは、まとまった休日を使い、二泊三日の旅行に出かけたのだけど……
「……」
「……」
会話がない。
互いに相手のことをチラリと見て……
そして、目が合うと、慌てた感じでふいっと逸らしてしまう。
雰囲気が悪いわけじゃない。
むしろ、こそばゆい感じで、照れくさい。
以前、コルシアに旅行をした時があるが、あの時は普通に接することができていた。
でも、今回は違う。
みんなはいない、俺とユスティーナの二人きり。
そのせいか、妙に意識してしまい……
いつも通りに振る舞うことができないでいた。
おまけに、都合がいいのか悪いのか、馬車の客も俺達だけ。
完全に二人だけの空間が形成されていて、どうしていいかわからない。
ユスティーナに対する意識が定まっていなければ、あるいは、普通に接することができていただろう。
しかし今は、自分の心を知ってしまい……
そのせいで、余計にギクシャクしてしまう。
「えっと……ユスティーナ」
このままではいけない。
せっかくの旅行なのだから、イヤな思いをさせたくない。
そう思い、勇気を振り絞り話を振る。
「な、なに?」
「旅行、楽しみだな」
「うん、そうだね」
「……」
「……」
会話、終了。
おかしい。
普段はもっと気楽に話せていたはずなのだけど……
意識してしまうだけで、こんなにも接し方に迷ってしまうなんて。
変なことを言って嫌われたらどうしよう?
逆に、どうすれば好かれるのだろうか?
そんなことばかり考えてしまう。
自分の柄ではないと思うのだけど、それでも、考えずにはいられない。
「……ねえ、アルト」
「うん?」
「えっと、その……」
もじもじと恥ずかしそうにしつつ、
「旅行、楽しみだね!」
ふわりと、花が咲くような笑顔で言う。
その笑顔はあまりに綺麗で、ついつい見惚れてしまう。
ユスティーナの笑顔は何度も見てきたものの……
今までで一番綺麗だ。
俺の心が変わったから、そう見えるようになったのだろうか?
「アルト?」
「あ、いや……なんでもない。そうだな。旅行、楽しみだな」
「うん! アルトと二人きり……えへへ、すごく楽しみ」
「思えば、二人で遠くへ出かけたことはないからな」
「夏休みの旅行は、みんな一緒だったからね。もちろん、みんな一緒の旅行も楽しいんだけど……でもでも、ボク、アルトと二人きりっていうのも楽しみだな」
そんなことを言われたら、抱きしめたくなってしまうからやめてほしい。
今は我慢。
ユスティーナなら、そのまま受け入れてくれそうでもあるが……
恋人になってもいないのに、そんなことをするわけにはいかない。
しっかりと自制する。
「あっ」
窓の外を見たユスティーナが声をあげる。
つられるように窓の外を見ると、深い紅葉に包まれた山と、その麓に広がる街が見えた。
「あれが、グレイハウンドか……」
「楽しみだね、アルト!」
「ああ」
いつの間にかぎこちない空気は消えていて、これからのことに対する期待だけが膨らんでいた。
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