246話 妄想な決意
「……ふへ」
「……ふひ」
「……ふへへへへへぇ」
部屋に不気味な声が響いていた。
年頃の乙女の声を不気味というのはアレではあるが、しかし、それは不気味以外の何者でもない。
ユスティーナが一人、部屋にいた。
とても人様には見せられないような、だらしのない顔をしている。
頬は緩み、目尻は垂れている。
時折、頬を染めて、なにを妄想しているのが身悶えて……
「ふへへへ」
そしてまた、不気味な声をこぼす。
かなり怪しい光景だ。
邪神を崇拝している最中です、と言われても納得してしまうかもしれない。
もちろん、そんなことはない。
彼女が手にしているのは……旅行ペアチケットだ。
戦術武闘大会でアルトが優勝して、手に入れた賞品。
自分ではなくしてしまうかもしれないと、アルトから預けられたものだ。
それを見て、ユスティーナはとてもだらしない顔をしていた。
「ボクにチケットを預けるっていうことは……つまり、そういうことだよね? ボクを誘うっていうことで、問題ないんだよね? 勘違いじゃないよね?」
旅行に誘われることを考えると、胸のドキドキが止まらない。
さらに、一緒に旅行に出かけた時のことを考えると、そのまま心臓が爆発してしまいそうだ。
「でも……ボクじゃなくて、他の人が誘われたら?」
アルトに旅行に誘われるという、それなりの自信はあった。
何度も何度も好意を伝えているし、色々なアピールもしている。
確たる手応えはないものの……
彼の周囲にいる女性陣の中で、自分が一番先を行っている、という自信がある。
しかし、ユスティーナは不安に思う。
もしも勘違いだとしたら?
アルトには他に想い人がいて、その人を誘うとしたら?
「……うへぇ」
一気に心が沈んだ。
とんでもなく悲しくなり、泣いてしまいそうだ。
「うぅ……まさか、竜であるボクが、こんなに不安定になっちゃうなんて。一年前は、こんなことになるなんて欠片も思っていなかったよ」
しかし、なってしまった。
たった一年で、がらりと心を変えられてしまった。
それが恋の力なのだろう。
「うー、もどかしいよぉ」
アルトは誰を誘うつもりなのか?
早く答えを知りたいと思うものの、一方で、答えを知るのが怖いとも思う。
矛盾した気持ちを胸に抱えて、なんともいえない複雑な気分に。
「って、ボクがこんな調子じゃダメだよね。アルトってば、けっこう鈍いというか、奥手なところがあるから……こういう時は、ボクがビシっとバシっとリードしないと!」
もしも振られたら?
そういう不安は消えることはない。
むしろ、どんどん大きくなってしまう。
それでも、ユスティーナは前に踏み出すと決めた。
怖いけれど、がんばると決めた。
そうしないと、自分が欲しいものは手に入れることができないから。
「……うんっ、決めた!」
勇気が心に蓄積されて、決意となる。
「もしも、今回の旅行、ボクが誘われたら……改めてアルトに告白をする! それで、ボクの今の気持ち、全部、受け止めてもらう!」
今までの告白と同じではない。
思えば、真剣に告白をしたことがない。
だから、アルトも迷っているのではないか?
なればこそ、胸の想いを余すことなく全て伝えよう。
ありったけの力で、全力でぶつかろう。
「やるぞー! えいえいおーっ!!!」
ユスティーナは、告白の決意を固めるのだった。
その結果がどうなるか……
今はまだ、誰も知らない。
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