243話 VSユスティーナ・決着
ユスティーナは己の勝利を確信していた。
攻撃のタイミングは完璧。
回避は不可能で、受け流すことも不可能。
もしかしたら、強引に受け止められてしまうのでは?
そんな可能性はあったが、しかし、それでも問題はない。
竜の一撃なのだ。
全力でガードしたとしても、その攻撃力の全てをゼロにすることはできない。
半分くらいは相殺されるかもしれないが……
残り半分のダメージは通る。
それで十分。
神竜の一撃ならば、例え半分のダメージであろうと、相手を戦闘不能にすることができる。
唯一の心配があるとすれば、やりすぎてしまわないか? ということだ。
アルトが望んでいる以上、ユスティーナは全力で応えるつもりだ。
ただ、まだ未完成とはいえ、神竜の全力を受けて、人間が耐えられるわけがない。
かすれば大怪我。
直撃したら即死。
それくらいの威力だ。
とはいえ、アルトも身体能力を最大限に引き出しているし、正規の竜騎士に匹敵する戦闘技術を身につけている。
最悪の事態は起こらないと思うが……
それでも、心配なものは心配なのだ。
アルトが望んでいるとはいえ、好きな男の子に拳を向けたくなんてない。
それよりは抱きしめてほしい。
ついでに頭を撫でて、キスしてほしい。
欲望混じりの思考を巡らせつつ、ユスティーナは拳を振り抜こうとして……
えっ?
アルトを見て、判断に迷う。
アルトは迎撃の構えを取らず、かといって、回避に移るわけでもない。
身体能力のリミッターは解除したままではあるが……
それだけ。
なにもしようとせず、ただただ、無防備に体をさらけ出していた。
このままだと直撃は必須。
大好きな男の子を自らの手で殴り殺してしまうという事実が……
ど、どうすれば!?
ユスティーナはおもいきり、うろたえた。
今すぐに戦闘を止めるべきだろうか?
しかし、そんなことはアルトは望んでいないはず。
無防備にしか見えないけど、途中で戦闘を投げ出すようなことは絶対にしないはずだ。
となれば、これは作戦?
あえて無防備なところを見せつけることで、ユスティーナを動揺させるという?
あるいは、ユスティーナが見抜けないだけで、他に真意が隠されているとか?
ああもうっ、ぜんぜんわからないよー!?
ここまで、思考を走らせることコンマ0・3秒。
拳の着弾まで、残り0・2秒。
どうする?
どうすればいい?
ユスティーナは混乱の極みに達して……
それから、ふと気がついた。
アルトは、ユスティーナをまっすぐに見つめていた。
その瞳には、あふれんばかりの闘志。
試合を投げ出すつもりなんて、欠片もないことが見てわかる。
それと……
信頼の色も見えた。
ユスティーナならば、きっと応えてくれる。
望んでいる通り、全力を出してくれるはず。
そんな信頼。
それを感じ取ったユスティーナは、迷いを捨てた。
そして、覚悟を決める。
他の誰でもない、アルトが望んでいるのだ。
全力の自分と戦うことを望んでいるのだ。
ならば、それに応えるべき。
ここで、アルトの願いを無視したのならば……
自分こそが、彼の隣に立つ資格を失うだろう。
いくよ、アルト!
ユスティーナは全力で拳を振り抜いた。
そして……意識を失った。
――――――――――
ユスティーナがリングに倒れ……
そして、俺は二つの足でしっかりと立つ。
それが、試合の結果となった。
「……」
なにが起きたかわからないという様子で、審判が唖然としていた。
観客も同様で、声を忘れている。
ユスティーナは……完全に気絶している。
起き上がる気配はなくて、たぶん、数時間は意識がないだろう。
「ふぅ……うまくいったみたいだな」
「……キミは、いったいなにをしたんだ?」
どうしても理解できないらしく、審判がそう尋ねてきた。
「ちょっとした技を仕掛けて、それが成功したんです」
「その技というのは?」
「カウンター」
相手の力を利用して、こちらの力も乗せて……
全てのパワーをまとめて叩き返すという、とっておきのカウンター技だ。
相手の力を利用するため、敵の力が強ければ強いほど破格の威力が生まれる。
話を聞くと完全無敵の技に思えるかもしれないが……
相手の力を受け流すのに失敗した場合、こちらが全てのダメージを負うことになる。
一歩間違えば終わり。
諸刃の剣なのだ。
グランとテオドールに特訓に付き合ってもらい、技の完成度を極限まで高めたものの……
いざ実戦で通用するか、それは未知数。
ユスティーナの力を全て受け流すことができるか、それも未知数。
でも、うまくいった。
賭けに勝った。
相手の力を利用するという、ちょっと反則気味な方法ではあるが……
しかし、ユスティーナに勝つことができた。
俺は、勝利を宣言するかのように右手を高く高く突き上げて……
「「「オォオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」
街中に響きそうなほどの歓声に包まれた。
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