240話 VSユスティーナ・その2
「好きな男の子がやる気になっているのは、女の子としてはうれしいし、ときめいちゃうけど……でもでも、ボクも竜としての意地とプライドがあるからね。負けてあげないよ!」
「ああ、正々堂々と戦おう」
「うん!」
晴れやかな笑顔を浮かべつつ、ユスティーナが距離を詰めてきた。
竜は、普段は穏やかで理知的ではあるものの……
実のところ、わりと闘争本能が高い。
一度、戦いを始めれば、苛烈で激しい戦闘を繰り広げるのだとか。
そんな竜の血は、しっかりとユスティーナにも流れているらしく、この試合を楽しんでいるみたいだ。
相手が俺だから、というのは自惚れだろうか?
「くっ」
ユスティーナが床を蹴り……
姿が消える。
ザザザッ、という激しい足音が横から聞こえてきた。
視認できないほどの速度で回り込んだのだろう。
真正面から突撃を繰り返さないところを見ると、俺のことを舐めているわけではなくて、しっかりと敵と認識してくれているみたいだ。
そうして侮らないでくれるところは、非常にありがたい。
全力のユスティーナと戦い、そして、勝つ。
それが俺の目標なのだから。
「っ!」
背筋に走るチリチリとした感覚。
妙な危機感を覚えた俺は、反射的に上体を横に傾けた。
直後、
ゴォッ!!!
轟音と共にユスティーナの拳が、宙を駆け抜けた。
それは、まさに雷撃のよう。
目に見える速度ではなくて、一撃必殺の威力を秘めている。
直撃していたら……
いや。
かすっただけでも、相当なダメージをもらっていただろう。
完全に回避することができたのは、運が良い以外のなにものでもない。
「くぅ、惜しい!」
「今のは、本当に危ないな……」
「っていうか、今の、どうして避けられたの? ボク、完全にとった! って思っていたのに」
「勘、としか」
「アルトって、たまに人間を超えているよね。竜の特訓をしたせいかな?」
「ライバルを鍛えたことになるな」
「ライバルじゃなくて、好きな男の子だよ」
試合の最中に、そういうことを言わないでほしい。
動揺して、色々な意味で失敗をしてしまいそうだ。
「でも……うん。今はライバルでいいや! アルトと戦うの、すごいわくわくするよ」
「俺もだ!」
今度はこちらの番というように、槍を振るう。
最初に突き。
二度目も突き。
最後に体を回転させつつ、薙ぎ払う。
しかし、ユスティーナは全てを回避してしまう。
しかもギリギリのところで。
なんていう動体視力と度胸。
普通は、見えていたとしても、武器を向けられれば怯んでしまうものなのだけど……
そんなことはなくて、堂々としたものだ。
竜とかバハムートとか、そういうものは関係ないのだろう。
今まで積んできた経験が、ユスティーナの力となっているに違いない。
一人の戦士。
そう考えて挑まなければ、すぐにやられてしまうだろう。
改めて気を引き締める。
「まだまだ!」
受けに回っていたら、圧倒的な勢いに飲み込まれてしまうだろう。
そう判断した俺は、立て続けに攻撃に出る。
駆け抜けて、その勢いを乗せて槍を突く。
一度、二度、三度。
全て避けられるが、構うことはない。
そのまま薙いで、突いて、再び薙ぐ。
いったい、どのような魔法を使っているのか?
ユスティーナは、俺の攻撃を全て避けてみせた。
かすることすらないというのは、なかなかに辛い。
驚異的な動体視力と反射神経。
それと、超高速の思考で戦術を組み立てているのだろうが……
ならば、それを打ち崩す!
「せぇっ!!!」
「え!?」
大きく踏み込むと同時、槍を投げた。
自ら武器を捨てるという愚行に、ユスティーナは驚き、一瞬ではあるが動きが止まる。
そのタイミングで距離を詰めて、側頭部を刈るような蹴りを叩き込む。
「むむ!?」
さすがというべきか、ユスティーナは即座に反応してみせた。
動きが止まっていたのは、コンマ数秒。
すぐに動いて、こちらの攻撃を的確にガードしてみせる。
しかし、そこまでは予想通りだ。
「えっ!?」
足払いをするが、防がれる。
ただ、その攻撃はフェイク。
ユスティーナの意識が足元に向いている間に、槍を拾う。
ちょうど近くに転がるように、威力、角度を調整して投げておいたのだ。
ゼロ距離で槍を叩き込む!
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