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236話 ありがとう

「アルト!」


 振り返ると、セルア先輩とセリス先輩が駆けてくるのが見えた。

 二人共息を切らしていて、とても焦っているみたいだ。


「どうしたんですか、こんなところまで」

「それは……僕の台詞だよっ」


 息を整えつつ、セルア先輩が必死な様子で言う。


「助けてほしいと頼んだのは、確かに僕たちなのだけど……」

「まさか、屋敷に乗り込むなんて……」

「あ、いや……それには、色々と理由が」


 なるほど。

 二人が焦っている理由がわかった。


 詳しい事情を知らず、かつ、ミリフェリアに関することを知っている二人からしたら、俺が殴り込みをかけたように見えたのだろう。

 だからこそ、ここまで慌てているのだ。


 まあ、殴り込みであることに間違いはないのだが……

 ジニーとアレクシアがさらわれたため、やむを得ず、という理由がある。


 そのことを二人に説明した。


「アルトの友達が……」

「そういうことだったのね」


 セルア先輩とセリス先輩は納得した顔になり……

 次いで、とても申しわけなさそうな顔になる。


「ごめん……僕たちのせいだね」

「え?」

「私たちに関わったばかりに、アルトだけではなくて、その友達にも危害が及んでしまうなんて……」

「いくらなんでも、ミリフェリアがそこまでするとは思ってなくて……いや、これは言い訳だね。本当にごめん」

「ごめんなさい……私たちにできることなら、なんでも謝罪を……」

「待った」


 ひたすらに謝罪を重ねる二人を止めた。


 俺は別に、謝罪なんて望んでいないし……

 そもそもの話、二人が謝ることではないと思っている。


「俺は、別に気にしていませんから」

「でも……」

「本当に気にしないでください。悪いのはミリフェリアであって、二人じゃありません。そもそも、ジニーとアレクシアが狙われたのは、俺のせいでもありますから」


 ミリフェリアの妄執の矛先が俺に向けられていた以上、もっと気をつけるべきだった。

 ユスティーナだけではなくて、他に目を向けておくべきだった。


 それを怠った俺の失態だ。

 断じて、二人の責任ではない。


 ないのだけど……

 二人は納得できないらしく、微妙な顔をしていた。


「セルア先輩とセリス先輩が気にする必要は、本当にないんですが」

「だからといって、はいそうですか、って納得できるわけないよ」

「そうね。私達が相談をしなければ、アルトやその周囲に及んだ被害は少なくなっていたかもしれない。そのことを考えると、責任がないなんて、口が裂けても言えないわ」

「二人は真面目ですね」

「アルトこそ」


 俺は、二人に責任はないと言うのだけど……

 二人は、そんなことはないと言う。


 ケンカをしているわけではないし、話がこじれているわけでもないのだけど……

 でも、話は平行線だ。


 どうすれば納得してもらえるのだろうか?

 それとも、俺が折れないといけないのだろうか?

 いや、しかし。

 そうなると、二人になにかしらの謝罪をしてもらう必要が……

 そんなことは必要ない。

 やはり俺は……


「はいはい、ストップ」


 パンパンと手を叩いて、ユスティーナが会話に入ってきた。


 しまった、彼女のことを忘れていた。

 ほったらかしにしておくと、拗ねる傾向にあるのだけど……


「むう」


 案の定、少しおもしろくなさそうな顔をしていた。

 眉を真ん中に寄せて、頬をちょっとではあるが膨らませている。


 拗ね度、30というところか?

 これなら、甘いもので機嫌を治してくれるかもしれない。


「自分が悪いとか私が悪いとか、そういう話はどうでもいいんじゃない?」

「いや、そういうわけにはいかないよ。僕は、きちんと責任を……」

「だから、そういう責任とかがどうでもいいの」

「えっ」


 バッサリと一刀両断されてしまい、さすがのセルア先輩も言葉が紡げない様子だ。

 セリス先輩も、なんて言えばいいかわからないらしく、次の言葉が出てこない。


「恩義を感じるのはいいと思うんだけどね? でも、責任とかそういう話になるのは、ちょっといきすぎだよ。そういう話は必要ないと、ボクは思うな」

「で、でも……」

「アルトとセルアとセリスは友達なんでしょ?」

「えっ」

「なら、そういう、やりすぎな気遣いは必要ないと思わない?」

「「あ……」」


 ユスティーナの言葉に、二人は目を丸くした。


 そう……彼女の言う通りなのだ。

 責任を感じることは仕方ないのかもしれないが……

 でも、必要以上に背負い、重荷になってほしくない。

 そんなことは望んでいない。


 迷惑をかけられたとしても。

 被害を被ったとしても。


 俺は、二人の友達だ。

 だからこそ、なにがあったとしても気にすることはないし、必要以上の謝罪や責任を求めることはしない。


 友達は、そういうものだろう?


「助けてくれてありがとう、どういたしまして……それだけでいいんじゃないかな?」

「それは……」

「でも……」

「それが、友達っていうものじゃないの? 違うっていうのなら、ボク、人間の友達の定義を理解していなかったのかも」

「「……」」


 これ以上の言葉は出てこない様子で、二人は口を閉じて、互いの顔を見る。

 気まずそうにしてて……若干の恥ずかしさも混じっていた。


「それでもなお気になるのなら、いつか、恩返しをすれば良いんじゃないかな? アルトが困っていたら助ければいいの。それでウィンウィンだよ」

「……ユスティーナの言う通りです」


 彼女の言葉に便乗する形になるのだけど……

 今なら、二人は俺の話を、言葉をきちんと受け止めてくれるだろう。


「必要以上の謝罪や恩返しは求めていませんよ。でも、二人の気持ちもわからないでもないので……一つ、要求させてもらいます」

「……それは?」

「できれば、これからも仲良くしてください」

「あ……」

「それが、俺にとって、一番の望みになります」


 セルア先輩とセリス先輩はキョトンとして……

 ややあって、それぞれに苦笑した。


「なんていうか……アルトには敵わないね」

「本当に」


 二人は、そっと手を差し出してきた。


「これからも」

「よろしくね」

「はいっ」

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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