234話 決着
「……」
ミリフェリアを殴り飛ばした体勢のまま、ユスティーナが固まっていた。
ぷるぷると小さく震えている。
まさか、呪術による、なにかしらのカウンターを受けた?
「大丈夫か? もしかして、どこか怪我を?」
「し……」
「し?」
「痺れるぅううううう……!!!」
妙な体勢で数時間昼寝をしてしまった時のように、ユスティーナはぷるぷると体を震わせていた。
そういえば、ミリフェリアはやたらと固くなっていたな。
槍の刃を弾いてしまうほどで……
いくらユスティーナでも、直接殴れば、けっこう痛いのだろう。
「アルト、あの女、なに!? めちゃくちゃ固いんだけど!? ゴム!? 分厚いゴムでできているの!?」
「あー……そういうヤツなんだ」
「すごい人間もいるんだね! ボク、勉強になったよ」
本当は呪術の力なのだろうが……
こんな状況で詳しく説明をするヒマはないため、一言で適当に済ませておいた。
それよりも、ミリフェリアだ。
彼女の制圧は完了しただろうか?
「う……ぐぅ……」
まだ意識はあるらしい。
しかし、立ち上がることができない様子で、陸の上で溺れているかのようにもがいていた。
さすが、ユスティーナというべきか。
俺があれほど苦戦していた相手を一撃でノックアウトしてしまう。
あらためて、竜のでたらめな力を思い知る。
この後、無事に戦術武闘大会が開催されればの話になるが……
俺は、ユスティーナと戦わなければいけないんだよな。
それを目標としていたし、もちろん、勝つつもりでもいる。
ただ、その目標はとても遠いところにあり、難しいものだと、改めて実感するのだった。
「わたくし、はぁ……このような、ところでぇ……!」
相当なダメージを受けていることは、見ただけでわかる。
それでも、ミリフェリアは諦めていない。
動かない体を必死に動かそうとして……
血走った目でこちらを睨みつけてくる。
その執念……
いや、妄執というべきか?
強烈な想いは、いったい、どこから湧き上がっているのだろう?
「あうっ!」
「アルトさまっ、大丈夫ですか!?」
「応援、つれてきたよ!」
再びの援軍。
ノルンとアレクシアとジニー……それと、複数の竜騎士が彼女達に同行していた。
「おや? 五大貴族の令嬢が犯罪に手を染めたと聞いて駆けつけたが……アルト・エステニア、キミだったか。それに、竜の王女まで」
竜騎士を率いる隊長らしき人に、気さくな感じで声をかけられた。
顔見知りなのだろうか?
思わず首を傾げていると、
「私だ。アラン・ランドール。以前、エンシェントドラゴンの一件で、顔を合わせたことがあるが、覚えていないか?」
「……あっ」
思い出した。
ノルンが暴走していた時、援軍にやってきてくれた人だ。
交わした言葉は少ないものの、色々とお世話になったから、今でもよく覚えている。
「ご無沙汰しています」
「キミとは、また会いたいと思っていたが……まさか、こんなところで再会するなんてな」
「できれば、日常がよかったですね」
「ああ、そうだな。それで……」
アランさんは、立ち上がれないでいるミリフェリアに目をやる。
「彼女が?」
「はい。グラスハイム家の令嬢であり、一連の事件の真犯人です」
「そうか……よもや、五大貴族の令嬢ともあろうものが、このような事件を起こすなんて。いや、だからこそ、なのだろうか?」
「なにか事情を?」
「そうだな……」
アランさんは部下にミリフェリアの拘束を命じた。
その一方で、事情を語ってくれる。
「このような事件を起こしておいて、キミは理解できないかもしれないが……彼女は、同情すべき点はあるのだよ」
――――――――――
ミリフェリア・グラスハイム。
五大貴族、グラスハイム家の次女として生を受ける。
モデルに起用されるほどの愛らしさとかわいらしさを持ち、将来はどんな美女になるのだろうと噂されるほど。
現に、彼女は美少女という言葉がふさわしい女性に育った。
容姿だけではなくて、頭の回転も早い。
ただ勉強ができるというだけではなくて、応用も得意だ。
今まで学んできた知識を活かして、様々な分野で貢献をしてきた。
学生でありながら、いくつかの特許をとってしまうほどだ。
容姿端麗。
それだけではなくて、天才と言っていいほどの頭脳の持ち主。
人々は言う。
天は二物を与えずと言うが、彼女の場合は違う。
いくつもの才能を持ち、しかも、それを腐らせることなく、見事に開花させることに成功した。
彼女こそ、紛れもない天才だろう。
全てを手に入れた、人生の成功者だろう。
そんな周囲の声は……
ミリフェリアにとって、なにも意味をなさない。
「わたくしは、そのようなものは欲していませんわ」
彼らは自分を見て全てをわかったつもりになっているが、とんでもない。
的外れもいいところだ。
確かに、ミリフェリアは優秀だ。
しかし、そんなことを望んだことは一度もない。
彼女が本当に欲しいと思っているもの。
心の底から望んでいて、しかし、手に入らないものは別にある。
それは……
「誰か……わたくしを愛してください」
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