231話 人を捨てた者
ミリフェリアはニヤリと笑う。
その笑顔からは、自分に対する圧倒的な自信が感じられた。
このような状況でも、逆転できると思っているのだろう。
執事を失ったものの……
もしかしたら、最初から彼のことは戦力としてカウントしていなかったのかもしれない。
頼れるのは己だけ。
信じることができるのは己だけ。
そんな歪んだ感情に心が支配されているのかもしれない。
だとしたら……
とても虚しく、悲しいことだ。
わずかに同情した。
とはいえ、ここで手を止めるなんてことは絶対にない。
彼女は、犯してきた罪を自覚させて、償ってもらわなければ。
「投降しないというのなら、実力行使でいく!」
ミリフェリアはなにかを企んでいる様子ではあるが……
それを実行に移す前に、すぐに終わらせよう。
ぐぐっと足に力を込めて、大きく跳ぶ。
一足でミリフェリアのところまで移動して、全力で槍を振る。
狙いは足。
横から柄を叩きつけるようにして、骨を砕き、行動不能に陥らせる。
「あらあら。この期に及んで、わたくしの命を奪いに来ないとは、なんてアルトさまは優しいのでしょう。ふふっ、吐き気がするほどにムカつきますわ!!!」
「なっ!?」
こちらの攻撃は、確かに直撃した。
ミリフェリアは無防備なままで、足に痛烈な一撃を受けた。
しかし……彼女は痛みに顔をしかめることも、悲鳴をあげることもない。
なにも感じていないかのように、笑っていた。
「さあ、反撃といきましょう」
ミリフェリアの体からあふれる黒い霧が、さらに大きなものに。
生き物のようにうねり、彼女の体を包み込む。
それは、闘気が視認できるようになったかのようで……
ぞわりと背中が震える。
「わたくしの一撃は、そこで倒れている無能よりも強烈ですわよ?」
ミリフェリアが拳を振るう。
その動きは、素人そのもの。
技術もなにもあったものではない。
学院の生徒ではあるが、体術は不得意なのか、それとも授業を真面目に受けていなかったのか。
どちらにしても、適当極まりない攻撃だ。
しかし……
「ぐっ、ううううう!?」
視認できないほどに速い。
ほぼほぼ勘で、槍を盾にして拳を防いだ。
直撃を避けることはできたものの、勢いを殺すことができない。
俺はそのまま吹き飛ばされて、数メートルを飛んだ後、ゴロゴロと床の上を転がる。
なんて力だ。
さきほどの執事よりも上ではないだろうか?
これが、彼女の言う呪術の本当の力……?
「あら、もう終わりなのですか? 容赦しないのではないのですか?」
「くっ」
挑発に乗るようなことはしない。
今の一撃で深く理解した。
彼女は、執事よりも強い。
しかも、少しの差というわけではなくて……
圧倒的な差がある。
呪術の力……いったい、どれほどのものなんだ?
それほどの力を持つか測ることができず、攻めあぐねてしまう。
そんな俺を見て、ミリフェリアがくすくすと笑う。
「アルトさまが動けないというのならば、わたくしの方から攻めることにいたしましょう……このように、ねぇ!!!」
「っ!?」
黒い霧のようなものが、より一層大きくあふれて……
次の瞬間、ミリフェリアが突貫してきた。
さきほどの執事よりも、さらに速い。
咄嗟に体をひねり、体を低くする。
直後、刈り取るように右手を薙ぎつつ、ミリフェリアが際どいところを駆け抜けていった。
距離が離れていたから、なんとか視認できたものの……
これは、何度も避けられるものではないな。
冷や汗が流れる。
「あら、避けられてしまいましたか。普段から、あまり体を動かしていませんし……それに、魂喰らいを使うのも今日が初めて。色々と調整が必要みたいですわね」
「魂喰らい……?」
「ふふっ、特別に教えてさしあげましょう。私が持つ呪術の本当の力……人の魂を喰らい、取り込みことで莫大なエネルギーを得る。呪術が禁忌と指定される所以ですわね」
「魂を? そんなもの……いや、待て」
俺が倒した……殺した執事を見る。
彼は倒れたまま動かない。
ただ、こころなしか、先程と比べると生気というものがない。
死んでいるのだから、当たり前の話ではあるのだけど……
しかし、あまりにも死体の劣化速度が速い。
死後、数日経っているような感じだ。
「ふふっ、正解。彼も、最後の最後で主の役に立つことができて、天国で喜んでいるでしょう。ああ、なんて素晴らしい。彼のような従者を得ることができて、わたくしはとても幸せものですわ」
「お前というヤツは……!!!」
人の命を弄ぶだけではなくて……
魂さえも好き勝手にするなんて!
激しい怒りが湧き上がる。
それと同時に、心が鋭く、槍のように研ぎ澄まされていく。
コイツは許せない!
「なら、俺も本気でいくぞ!!!」
「あら?」
リミッター解除。
身体能力を100パーセント、発揮できるように力を解放した。
制限時間は、およそ5分。
その間に決めてみせる。
「おおおおおぉっ!!!」
全力で打ち倒す。
その結果、殺めることになろうとも……
迷わず戦う!
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