特別話 宣伝
「アルト!」
休日。
たまには稽古を休み、部屋でのんびりと本を読んでいると、ユスティーナが駆け込んできた。
なにやらとても慌てた様子で、息が荒い。
「どうしたんだ?」
「今日、ボクたちの物語が発売されるみたい!」
「……どういうことだ?」
「ほら、アレクシアと出会ってから旅行に出かける最初の方までのところ、あるじゃない? あの辺りのエピソードが本にまとめられて、発売されるんだって。ちなみに、二冊目」
「……なんで、そんなことに?」
「若い英雄、って呼ばれているアルトの宣伝をしたいみたい」
「いつの間に……」
そんな本が発売されるなんて、一言も聞いていない。
いったい、誰が企画したんだ?
「ユスティーナが手に持っているものは……」
「うん、その本だよ。二冊目ね」
「見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
本を受け取り、パラパラとページをめくる。
「……へえ」
自分のことが書かれていることはこそばゆのだが……
いい感じにうまくまとめられていて、純粋に楽しいと思えた。
「これ、いったい誰が書いたんだ?」
「誰なんだろうね……? 筆者は謎なんだよ」
「俺たちは当事者なんだけど、でも、不思議と楽しめるな」
「うんうん、そうだよねー。ボクとアルトのラブラブっぷりが良い感じに描写されていて、ボクとしては大満足だよ!」
笑顔で言い、
「でも……ボクの知らないところでアレクシアに告白されていたり、こっそりとアレクシアと仲良くなっていたり、イチャイチャしていたり……それと、裸のノルンに抱きしめられたり、き、キキキ、きっ……キスされたり! あとあと、日常的に抱きつかれたり、頭をなでなでされたり、またまたぎゅうっとされたり! でもって、最後にククルとかいう女の子と仲良くなって、また、イチャイチャしてるところも書かれていてぇ……うぅ、うううううっ! やっぱり、なんかやだ! モヤモヤする! アルトの浮気者!!!」
「いや、それは……」
申しわけないことをしているとは思うのだけど……
でも、当時はどうしようもなかった。
「えっと……すまない。今度、お詫びになにかする」
「ほんとに?」
「本当だ」
「なら、デート! アルトとデート! イチャイチャデートを希望するよ!」
「それくらいでいいのなら」
「やった! えへへ、デートだデートだ♪」
俺が言うのもなんだけど、こんなに簡単に機嫌を直していいものなのだろうか?
もう少し、こう……
怒っていますよ、と伝えるべきではないのか?
そうでないと、ちょろいと思われてしまうような気がする。
「って、話が逸れちゃった」
もう一冊持っていたらしく、ユスティーナは本を取り出して、パラパラとめくる。
「ただ物語をまとめただけじゃなくて、見ての通り、かわいい挿絵がついているんだよね」
「確かに、かわいいな」
「うんうん、ボクの魅力が十分に描かれているよねー」
「こんな挿絵をつけてもらえるなんて、感謝だな」
「そうそう、だから、買わないといけないんだよ」
「でも、俺たちが買う必要はないんじゃないか? 当事者だから、当時のことを物語で振り返っても、あまり仕方ない気が……」
「ちっちっち、甘いよ」
ユスティーナが芝居っぽく、人差し指を立てて横に振る。
「この物語は、書籍化するにあたって、色々と加筆修正されているんだよ」
「加筆修正?」
「矛盾点や強引な展開は、もちろん修正されているよ。それだけじゃなくて、物語の展開にも手が加えられていて、読みやすく、より面白くなっているの」
「そうなのか? でも、大幅に変わっていると問題にならないか?」
「大丈夫。基本的な流れは同じだから。例えば……ボクたちが隣国に旅をするとするでしょ? そのための手段として、陸路を選ぶか海路を選ぶか。それくらいに大きく物語は変わっているんだけど……でも、最終的に隣国にたどり着く、っていう結末は変わっていないの。だから、安心して読んでいいよ」
「わかるような、わからないような……?」
途中経過は変わっているものの、最終的な結末や、大幅な道筋はそのまま、ということか。
「より洗練された、って言えばわかりやすいかな」
「最初からそう言ってくれ」
「ぐむ」
痛いところを突かれたという感じで、ユスティーナは怯み……
しかし、なかったことにして、笑顔になる。
「そんなわけで、ちょうど今日、本が発売されるんだ。ボクたちの活躍をたくさん見ることができるよ。それだけじゃなくて、ボクとアルトの甘い新婚生活も堪能できるの!」
結婚はしていない。
捏造はやめてくれ。
「まあ、とにかく……」
「よろしくお願いします! っていうことだね」
「落ちこぼれ竜騎士、神竜少女に一目惚れされる」
書籍2巻、本日発売です。
よかったら手に取ってみてください。