228話 呪術戦士
「いきなさい!」
「……」
ミリフェリアの命令に従い、執事が無言で突撃してきた。
どれだけの体重があり、どれだけの勢いが足にかけられているのか?
一歩を踏み出す度に、床にビシビシとヒビが入る。
コイツは危険だ。
頭の中で警報が鳴り響く。
「まずは動きを止める!」
槍を右から左へ払い、執事の足を薙ぐ。
手加減はしていないし、刃にカバーをつけていない。
肉を断つ確かな手応え。
しかし……
「なっ!?」
執事は足の傷を一切気にすることなく、そのまま突撃してきた。
ゴォッ! と風を巻き込むようにしつつ、豪腕を繰り出してくる。
ゾクリと背中を駆け抜ける死の予感。
後のことは考えず、俺は全力で横に跳ぶ。
回避は……なんとか成功。
執事の拳は、俺の頬をかすめるだけに終わる。
さらに後ろへ跳んで距離を稼ぐ。
「こいつ……いったい、なんなんだ?」
足の傷はかなり深い。
致命傷というわけではないが、激痛があるはずだ。
それを一切無視して行動できるなんて……
そして、今の攻撃。
たったの一撃で死を意識してしまうほどの威力があった。
人を拳で殺すことは、可能といえば可能だ。
ただ、そのためには何度も何度も殴り続ける必要がある。
一撃で殺すなんて、普通はありえない。
「ふふっ、驚いているようですわね」
さきほどまで激高していたミリフェリアは、今は落ち着いていた。
俺が劣勢に陥っていることを理解しているらしく、それで気分が良いのだろう。
「アルトさまがいかに優れていようと、英雄であろうと、ソレを倒すことは不可能ですわ」
「ソレ?」
まるで人ではないような言い方だ。
「さあ、アルトさまを殺すのです。わたくしを理解していただけない方など、不要ですわ。この世界から抹消しなくては!」
「くっ」
ずいぶんと勝手なことを言ってくれる。
お前の歪んだ思想を理解してくれる者なんて、誰もいるわけがない。
……と、無駄口を叩く余裕はない。
「……!」
再び執事が突貫してきた。
ドッドッドッと大きな足音を立てている。
まるで重装兵だ。
「これならどうだ!?」
槍の中心を持ち、風車のごとく回転させる。
その勢いを乗せて、執事の顎を叩き砕く。
顎の骨を割る、確かな感触を得た。
この傷は無視できるものではない。
それに、強烈な一撃を顎に受けたのだから、うまくいけば脳震盪を起こすだろう。
そのはずなのに……
「くぅ!?」
執事が止まることはない。
何者も阻むことはできないというかのように、拳を繰り出してくる。
一撃一撃が致命的な威力を秘めていると判断した方がいい。
まともに受けたら、そこで終わり。
槍を盾代わりにして防ごうとしても、そのまま砕かれてしまうだろう。
かすることなく、避けるしかない!
「ちっ」
半身にして、一撃目を避けた。
上体を逸らすことで、二撃目を回避。
最後の一撃は、あえて執事の懐に飛び込むことで体を逃がす。
「これなら!」
槍の柄で執事の腹部を打つ。
ゼロ距離からの強烈な一撃だ。
しかも、急所狙い。
これを耐えるとしたら、それはもう人じゃない。
「……」
執事は……倒れることなく、揺らぐことすらなく、耐えていた。
「ウソだろう……?」
呆然としつつ、慌てて距離をとる。
これはもう、頑丈というレベルの話じゃない。
例え、この執事に痛覚がなかったとしても、耐えられるものではない。
肉体的なダメージは相当なものだから、普通ならば、神経が傷つくなどして、体を動かすことはできないはず。
それなのに、どうして……
「ふふっ、あはっ……あははははは! 無様ですわね、アルトさま。その顔はとても素晴らしいですわ! 少しは気が晴れました」
「コイツは、いったいなんなんだ?」
ミリフェリアの命令を忠実に守っているらしく、今は動かない。
ただ、隙があるわけではない。
下手に飛び込めば、カウンターで撃沈されるだろう。
「その執事は、わたくしの最高傑作ですわ」
「傑作……?」
「実はわたくし、呪術を学んでおりますの。禁忌に指定されている技術ですが、呪術を禁忌指定するなんてもったいないと思いませんか? このような強靭な戦士が作れるのですから」
「まさか……」
とある考えが頭をよぎる。
「ふふっ、気がついたようですわね。そう……その執事は、わたくしの呪術の恩恵を得たのですわ」
「呪術を使い、体を作り変えたというのか!?」
「正解、ええ、正解ですわ。ふふっ、素晴らしいでしょう? 身体能力は何倍にも強化されて、痛みに怯むことなく、忠実に命令を守る。最強の戦士ですわ」
「……その人の意思は? 心は?」
「意思? 心? そのようなもの、戦士に必要ありませんわ。わたくしの命令だけを聞けばいいのです」
「お前というヤツは……!」
人の心を弄ぶようなことを平然と行うことができるなんて。
今、確信した。
ミリフェリア・グラスハイムは、人でありながら人であることをやめている。
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