227話 否定するさ
ミリフェリアと対峙しつつ、ユスティーナに言われたことを思い出す。
「アルトは、ミリフェリアをこれ以上ないくらいに、徹底的に振って。これ以上ないくらいに、こっぴどく、徹底的に。違うよ? 私怨じゃないよ?」
「徹底的に振ることで、ミリフェリアの歪んだ想いを断ち切るの。ああいう子は、下手に同情したり優しい言葉をかけたら、自分勝手に都合よく解釈して、ものすごいポジティブ変換をするから。だから、やるなら徹底的に。そうすることで、アルトのことを諦めさせるの」
「ただ、注意が一つ。そこまでされると、今まで溜め込んできた想いが爆発すると思う。愛が一転して憎しみに変わって、それらが全部、アルトに向けられるかもしれない。だから、注意が必要なんだけど……でも、それ以外に、ミリフェリアの想いを断ち切る方法はないと思うんだよね」
徹底的に振る……か。
なかなかに心が痛いというか、難しいことだ。
どうしようもない相手とはいえ、俺を慕ってくれていることはうれしく思う。
それなのに、絶対にありえないと答えを突きつける。
ユスティーナも、難題を押しつけてくれる。
ただ……これは、俺がやるべきことなのだろう。
セルア先輩とセリス先輩を助けたいということもあるが……
歪んでいたとしても、想いを向けられているのは俺。
ならば、どのような形であれ、俺が応えるべきなのだ。
「ミリフェリア・グラスハイム」
「あぁ、アルトさま……わたくしのことを名前で呼んでいただけるなんて」
さきほどまでの激高した様子はどこへやら、ミリフェリアは恍惚とした表情に。
コロコロと感情が切り替わる様が恐ろしくもある。
「俺は、あなたの想いに応えることはできない」
「え?」
「俺が好きなのは、別の女の子だ。それは、あなたじゃない」
「ふふっ、アルトさま。それは、一時の気の迷いというヤツですわ。あなたさまが好意を抱いているのは、このわたくし。それ以外にありえません。なぜならば、それこそが運命であり……」
「そんな運命はない」
ミリフェリアの言葉を遮り、ピシャリと言う。
「世の中、絶対ということはない。どんなに難しいと思われることでも、絶対に達成できないということはない。1パーセントでも可能性はあるものだ。でも……この件に関しては断言できる」
俺は、ミリフェリアの顔をまっすぐに見つつ、静かに……しかし、強く言う。
「俺があなたを好きになる可能性は、ゼロパーセントだ」
「……」
「あなたがいくら俺を好きになろうが、どれだけ尽くそうが、俺の心が揺らぐことはない。あなたに好意を向けることはない」
「……やめて」
「他に好きな女の子がいるからとか、そういう理由じゃない。あなたという人は、俺にとっては恋愛の対象外だ。絶対に好きになることはない」
「……やめて」
「これまでも、これからも、あなたを好きになることはない。それは、100パーセントであり……絶対だ」
「やめてえええええぇえええええっ!!!!!」
ミリフェリアは、悲鳴をあげるかのように叫ぶ。
屋敷全体にかな切り声が響いた。
そのまま、髪を振り乱すようにしつつ、絶叫する。
「どうして!? どうしてどうしてどうして!? わたくしは、こんなにもあなたのことを慕っているというのに!!! こんなにも好きなのに!!! それなのに……どうして!!!?」
ユスティーナは、同情してはいけないし、甘い言葉もかけてはいけないと言っていた。
それでも、彼女の悲痛な声を聞いていたら……
一つ、同情に似たような言葉をかけてしまう。
「あなたは、かわいそうな人だ」
「……なんですって?」
「俺のことを好きというが、それは、本当の好きなんかじゃない。憧れか親しみか、そんな感情がねじれて歪み、変質した結果の感情だ。偽物の感情だ」
「あなたさまに、わたくしのなにがわかるというのですか!? あなたさまが、わたくしを否定するのですか!?」
「否定するさ」
俺は首を横に振る。
「同情するよ」
「……」
「ミリフェリア・グラスハイム。あなたが、どんな人生を歩いてきたか、それはわからないが……あなたは恋も愛も知らない、かわいそうな人だ」
「……くひっ……」
空気が抜けるような音がした。
いや。
それは、ミリフェリアの笑い声だ。
「くひ、ひひひ……あはっ、ひゃははははは!!!」
壊れてしまったのではないか?
そう思うほどに、ミリフェリアはおかしな笑い声を屋敷に響かせる。
狂気と憎悪が広がる。
質量を持っているかのように、空気が重くなり、不快な感覚を得る。
「あなたさまを愛しているのに! わたくしが、あなたさまを愛してあげたというのに!!! それなのに、このような仕打ちを受けるなんて……あぁ、なんてひどい、なんてひどい方。なんてなんてなんて、なんてひどいのでしょうか!!!」
「あなたは、自分だけしか見ていない。そんな一方通行の愛なんて、成立するわけがないだろう」
「ここにきて、まだそのようなひどい言葉をぶつけるのですね。くひっ、けひひ……もういらない、いりませんわ! あなたさまは……いいえ、あんたのような腐れ野郎、こちらから願い下げですわ!!!」
完全に切れたらしい。
倒錯した愛情が消えて、殺意だけになる。
ここまでは、ユスティーナの予想通り。
うまく彼女の歪んだ想いを否定して、打ち消すことができた。
ただ、本当の勝負はこれからだ。
愛情が憎しみに転じたミリフェリアを倒して、制圧しなければいけない。
さらにいうのならば、ジニーとアレクシアの救出も。
「グレス」
ミリフェリアの呼びかけに、傍で待機していた執事が応えた。
言葉を発することはないが、軽く顔を動かして視線を主に向ける。
「あの男を殺しなさい。女の方はどうでもいいですわ」
かしこまりました、というように執事が一礼した。
「ノルン」
「あう?」
「俺は、あの執事とミリフェリアを相手にする。その間に、ジニーとアレクシアを頼む」
「あう!」
りょーかい、というように、ノルンがビシッと敬礼した。
だから、本当に、どこでそんな仕草を覚えてきたのやら。
「いきなさい、グレス。あの男の手足をもいで、治療をして、殺してくださいと懇願するまで痛めつけてあげなさい」
なんて趣味の悪い。
好きと言っていた相手に、ここまでのことができるものなのか?
まあ、あれだけの歪んだ愛情が憎悪に転換されれば、こうなるのも当然なのかもしれないな。
「……!」
二階席から執事とミリフェリアが飛び降りてきた。
ミリフェリアは着地と同時に膝を曲げて衝撃を緩和しているが、執事はなにもしていない。
ただ単に落ちた、というような感じだ。
それなのに、怪我をした様子はない。
痛みに表情を動かすこともない。
なんだ、コイツは……?
イヤな予感がするが、ここまできたら逃げることはできない。
全力でぶつかるだけだ。
「ノルン!」
「あう!」
ノルンが二階席にジャンプ。
ジニーとアレクシアを確保して、そのまま屋敷の外に連れ出した。
これで安心して戦うことができる。
俺は槍を構えた。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




