225話 愛故の暴走
どのようにしてそんな力を手に入れたかわからないが、ミリフェリアは呪術という禁忌に手を出した。
妄執の末に、その力を使い、ユスティーナを排除するという暴挙に出た。
幸いというべきか、彼女の戦闘力は規格外なので、自力で排除することに成功した。
しかし、これで終わりだとは思えない。
おそらく、ジニーとアレクシアも狙われるだろう。
そう危惧させられるだけの狂気をミリフェリアに感じた。
「ユスティーナは、ジニーとアレクシアを見かけていないか? あるいは、どこにいるか知っているとか」
「うー……ごめんね。ちょっと見当がつかないかも」
「くっ……俺達が合流するのが先か、ミリフェリアが二人を見つけるのが先か」
今回の戦術武闘大会に合わせてきたのか、ジニーもアレクシアもかなり強くなった。
滅多なことで遅れはとらないと思うが……
それでも、心配なものは心配だ。
強いとしても、二人は女の子なのだ。
なにかあれば……という不安が拭えない。
「手分けして探そう。俺は王都の東を……」
「ううん、それはやめておいた方がいいかも。呪術を使った敵って、戦闘力はともかく、耐久力がとにかく厄介なんだ。こんなことを言うのはなんだけど……アルトだけじゃ厳しいかも」
「わかった。なら、一緒に行動しよう」
「……」
ユスティーナがぽかんとする。
「どうしたんだ?」
「いや、だって……ボク、けっこう失礼なことを言ったと思うんだけど」
「ユスティーナのことは信じているからな。その言葉を疑うことはないさ」
「あ……」
「それに、俺がまだまだなのは確かなことだからな。敵わない相手がいたとしても、ぜんぜん不思議じゃないさ」
「うーん……そこら辺は、いつものアルトというか、謙虚すぎるんだよね。でも、そういうところはらしくて、かっこいいと思うな」
なぜかユスティーナの俺に対する好感度が上昇する。
本当になぜだ?
「まずは、二人の部屋を訪ねてみるか。いなければ、行き先に心当たりがないか聞き込みをしよう」
「うん、そうだね。焦っちゃうかもしれないけど、でも、今は堅実に進めることが……」
「あうっ」
今後の方針を話し合っていると、聞き慣れた無邪気な声が。
振り返ると同時に、どすんと腹部の辺りに軽い衝撃。
ノルンが突っ込んできていた。
「あうあうっ」
「ノルン? どうしてここに……」
「うーん……もしかして、寂しかったのかな? ボクもアルトも出かけているから、朝起きたら一人。ボク達のことを探していたのかも」
「あう!」
その通り、というような感じでノルンが頷いた。
寂しがらせていたなんて、とても申しわけないと思う。
保護者失格だ。
でも、今は非常時。
すごく悪いと思うのだけど、今は部屋に戻ってもらうしか……
「ううん、アルト。ノルンも一緒にいた方がいいよ。もしかしたら、ノルンもターゲットにされているかもしれないから」
「そうか……それもそうだな」
「まあ、ノルンのことだから、呪術兵ごときでどうにかなるとは思えないけど、念の為」
そういえば、ノルンはこう見えて、エンシェントドラゴンだった。
いつもの幼い仕草のせいか、ついつい忘れがちになってしまう。
「あと、ノルンがいれば二手に別れることができるから。アルトは、ノルンと一緒に二人を探して。ボクは二人を探しつつ、お姉ちゃんとかセルアやセリスを見つけて、協力を頼んでみるから」
「わかった、気をつけて」
「アルトもね」
ユスティーナは少しかがみ、ノルンと目線を合わせる。
「アルトのこと、任せたからね? しっかり守ってね」
「あう!」
ビシッ、と敬礼をしてみせるノルン。
どこでそんな仕草を覚えたんだ……?
ノルンの将来に一抹の不安を覚えつつも……
今はジニーとアレクシアを探すことを優先として、俺はノルンと一緒に公園を後にした。
――――――――――
「くそっ、見つからないな……」
王都の東側を走り回り、時に聞き込みをして……
しかし、ジニーとアレクシアは見つからない。
ユスティーナの方で見つけているだろうか?
もしも見つけられていなかったら?
その間に、ミリフェリアが二人にたどり着いていたら?
悪い想像をしても仕方ないのだけど、どうしても考えてしまう。
「あう」
ふと、手に触れる温かい感触。
ノルンが心配そうな顔をして、俺の手を握っていた。
「……ノルン……」
「あうあう」
自分がついているから大丈夫だ、と言っているかのようだ。
というか、実際にそう言いたいのだろう。
「そうだな……俺は一人じゃない。ノルンがいる、ユスティーナがいる。他のみんなもいる。一人で抱え込んでいても仕方ないな」
「あう!」
「よし。ノルン、力を貸してくれ。なんとしても、二人を探し出そう」
決意を新たにして、次の捜索地を考える。
アレクシアは五大貴族の令嬢だ。
かなり目立つと思うのだけど、今のところ、聞き込みをしても成果はゼロ。
単に、見当違いの方向を探しているというの可能性もあるが……
二人がまったく人目につかないところに移動している、という可能性もある。
自主的に移動したのか。
あるいは……ミリフェリアに誘拐されたのか。
楽観的に考えることはできないから、後者と考えた方がいいだろう。
「そうなると、二人はどこへ連れ去られた?」
答えはすぐに出る。
「ミリフェリアの屋敷以外に考えられないな」
ユスティーナのように、なぜ、その場で襲わずに誘拐したのかわからないが……
事実確認は後ですればいい。
今は、二人の身の安全の確保が最優先だ。
ミリフェリアに誘拐されたと決まったわけではないが、しかし、可能性が高いのも事実。
他に心当たりがない以上、一度、様子を見てみるのもアリだろう。
「いこう、ノルン」
「あう!」
再び、ビシッと敬礼するノルンと一緒に、俺は街を駆けた。
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