224話 呪術
「彼女はなにかを企んでいたようだけど……いったい、なにを考えている?」
俺の心を解き放つと言っていたが、その意味がわからない。
だが、そこで思考を停止させるな。
考えろ。
考えろ。
ミリフェリア・グラスハイムの思考を逆に読み、彼女の行動を予測するんだ。
こうしている間も、イヤな予感は膨らんでいく。
自分のことを信じるのならば、あまり時間はないと考えた方がいい。
「騙されている……俺の心を解き放つ……」
ミリフェリアの言葉を思い返して……
そして、一つの可能性に思い至る。
「俺の心は今、ユスティーナに向いている……そのことを囚われていると見ていたとしたら? そうなると、解放するという意味は……ユスティーナを排除するということ?」
俺は部屋を飛び出した。
係員になにごとか問いかけられるが、説明している時間はない。
気にすることなく会場を飛び出して、ユスティーナの姿を探す。
「くっ、どこに……!?」
会場の周囲を探してみるものの、ユスティーナが見つかることはない。
ジニーやグラン達もいない。
せめて、誰か一人でも見つけることができれば、行動できる幅が広がるというのに……!
「いや……ダメだ。焦るな、落ち着け」
深呼吸をして、乱れた呼吸と思考を必死に整える。
このような状況で、焦ればロクなことにならない。
こういう時こそ落ち着いて、冷静に物事を考えなければ。
「今日は、大会最終日。ユスティーナは、俺の応援をしてくれる? いや……彼女も出場者だから、控え室に? でも、ユスティーナの出番は午後だ。そうなると、今はまだ、会場入りしていない可能性が高い」
ぶつぶつとつぶやきながら、ユスティーナのいる場所を考え、思考を広げていく。
その中で、とある場所を思い出した。
「もしかしたら!」
全力で街中を駆ける。
日頃の訓練のおかげか、足を止めることなく、目的地まで駆け抜けることができた。
その目的地というのは……
以前、ユスティーナとデートをした時に訪れた、王都の中心から離れたところにある小さな公園だ。
その高台。
今回の大会で、彼女に宣戦布告をした場所。
ここ最近で、とても強い印象を与えて受けた、ある意味で思い出の場所。
そこに……ユスティーナはいた。
「ユスティーナ!」
「あれ、アルト?」
ユスティーナはこちらに気がついて、不思議そうな顔に。
「どうしてアルトがこんなところにいるの?」
「それは……って、その足元にあるものは、いったい?」
ユスティーナの足元に、骨のようなものがバラバラと散らばっていた。
人の骨ではない。
獣の骨だろうか?
鋭い牙のようなものも見える。
「うーん、ボクもよくわからないんだよね。骨だらけの魔物? がいきなり現れて、襲いかかってきたの」
「なっ……大丈夫か!? 怪我はしていないか!?」
「ふぁ!?」
思わずユスティーナの肩を掴み、間近で問いかける。
それから彼女の体を足から頭まで、全部チェックする。
見た目は怪我をしていないが……
もしかしたら、服の下に血が流れているかもしれない。
今すぐに確かめて……
って、待て。
そんなことを勝手にしたら、俺は変態どころの話では済まない。
憲兵隊に逮捕されてしまう。
「アルト? その、えっと……近いよ?」
「あ、いや……すまない!」
ユスティーナは耳まで赤くして、ひたすらに照れていた。
そんな彼女を見て冷静になった俺は、慌てて離れる。
「それで、その……怪我はしていないか?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
「よかった……」
「変な魔物で、そこそこの力は持っていたみたいだけど……でも、ボクの敵じゃないかな? これくらいの相手なら、1万体くらいは同時に相手できるよ」
「そ、そうか……」
相変わらずスケールが違う。
「アルトは、こいつらがなにか知っているの?」
「いや。ただ、誰の仕業なのか、それについては見当がついている」
「……もしかして、ミリフェリア・グラスハイム?」
「おそらくは」
ミリフェリアとのやりとりをユスティーナに説明した。
すると、彼女はぷくーっと頬を膨らませる。
「むううう……アルトってば、ボクのいないところで女の子と二人きりに……」
「え? 怒るところは、そこなのか?」
「怒るよ! ボクはアルトが好きなんだからね!? それなのに、他の女の子と二人きりになったり告白されたりしたら、落ち着いてなんかいられないんだからね!?」
「いや、その……それに関しては、本当にすまない。近いうちに……」
「近いうちに?」
「っと……なんでもない」
危うく、勢いで告白してしまうところだった。
このまま告白してもいいのではないか? と思う人もいるかもしれないが……
やはり、彼女にふさわしいと、隣に立つに値すると自信が持てるようになってからでないと、ダメだと思うのだ。
そうでないと、いつか気持ちが負けてしまい、破綻してしまうような気がした。
「それよりも、今は魔物についての話だ」
「むう。ごまかされているような気がするけど、でもでも、確かに放っておけないか」
「いったい、どういう魔物だったんだ?」
「んー……なんていうか、骨? 骨でできた兵士とか獣とか、そんな感じ?」
「スケルトンやゾンビの類なのか? しかし、街の外ならともかく、結界が展開されている王都の内部でそんな魔物が発生するわけがないのだけど……」
「もしかしたら、人工的に発生させているのかも?」
いまいち自信のない様子で、ユスティーナがそう言う。
なにかしら心当たりがあるらしい。
うろ覚えらしいが、今は他に手がかりがない。
「ユスティーナの考えを聞かせてくれないか?」
「昔、お母さんに聞いたことがあるんだけど、こういう魔物を操る外法が存在したらしいの。確か、えっと……呪術、って言ったかな?」
「俺も聞いたことがある」
死者の力を利用するという、おぞましい術があると、学院の授業で習ったことがある。
強力な力を得ることができるものの、非人道的な内容故に、禁忌に指定されたとか。
「その呪術が使われた魔物っぽいんだよね。根拠としては薄いんだけど、以前、お姉ちゃんに聞いた話とよく似てたから」
「そうか……だとしたら、厄介なことになるかもしれない。いや、すでになっているのかも」
「どういうこと?」
「ミリフェリア・グラスハイムが……たぶん、暴走している」
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