219話 セルアとセリスの戦い、ついでにフレイシア
セルアとセリスの二人は、戦術武闘大会の会場を遠く離れて、グラスハイム家の屋敷の中へ移動していた。
二人は度々ミリフェリアに呼び出されるため、屋敷の中にいることは珍しくない。
屋敷で働く執事やメイドと顔見知りになるほどで、こんにちは、と挨拶を交わすくらい穏やかな関係だ。
故に、誰も気づかない。
二人がいつもの雑用ではなくて、ミリフェリアの悪事の証拠を探すためにやってきたということに。
「セルア、私はミリフェリアの部屋を探してみるわ。同じ女の方がいいでしょう?」
「そうだね。なら僕は、書斎や倉庫を探ってみるよ」
二人の目的は一つ。
ミリフェリアが権力を乱用しているという証拠を探すこと。
アルト達に力を貸してほしいと頼んだものの、やはり、全てを任せることはできない。
なにもしないで、のんびりとしているわけにはいかない。
二人がなにもしなくても、アルトはきちんと力を貸してくれるだろう。
笑顔で笑いかけてくれて、全力を尽くしてくれるだろう。
しかし、それではダメなのだ。
だって……友達なのだから。
時と場合によるが、やはり、友達というものは対等な関係であるべきだ。
自分だけが安全な場所にいて、なにもしないわけにはいかない。
今後も友達でありたいと願うのなら、なおさら。
「アルトが友達と言ってくれたことに対して、私達は、しっかりと応えないといけないわね」
「うん、そうだね。彼のために、自分達のために、やれることをやらないと」
二人は決意を固めて、それぞれ行動を開始した。
ユスティーナを通じて、グラスハイム家に圧力をかける。
それが今回の作戦の一つだ。
同じ五大貴族であるアストハイム家は屈した。
おそらく、グラスハイム家も屈するだろう。
というか、そもそも、グラスハイム家の当主はまともな人格者だ。
娘に甘く、暴走を許してしまうという欠点はあるものの、それ以外は非の打ち所がない。
問題を指摘されれば、娘に対してなにかしらの処置を取るだろう。
しかし、溺愛しているが故に、甘い処置になるかもしれない。
そしてまた、同じことを繰り返すかもしれない。
そんな可能性を主張して、決定的な罰を与えるために、悪事の証拠を掴むことにした……というわけだ。
「さてと……うまく見つかるといいんだけど」
セリスと分かれて一人になったセルアは、屋敷の人と挨拶を交わしつつ、ここにいることが当然という顔をして進む。
誰にも怪しまれていないが、長時間滞在すれば、さすがに不審に思われるだろう。
迅速かつ、跡を残すことなく作業をしなければいけない。
まずは書斎に移動した。
セルアの記憶では、ミリフェリアはよくここに足を運んでいた。
なにかしら、求める記録が保管されているかもしれない。
「とはいえ、大したものがあるとは思えないな」
ミリフェリアに付き従い、セルアも何度か書斎に足を運んだことがある。
記憶の限りでは、なにかが隠されているような印象はない。
「でも、見落としがあるかもしれない。少しでもいいから、次に繋がる手がかりを探さないと」
セルアは書斎を丁寧に、慎重に捜索していく。
大事なものが隠されているかもしれない。
その可能性を信じて、捜索を続ける。
そのせいで、後ろに忍び寄る気配に気づくことができなかった。
「……動くな」
「っ!?」
「ここでなにをしている?」
「そ、それは……」
書斎に足を運ぶ者は、ミリフェリア以外にいない。
故に見つからないだろうと安心していたが……
油断した。
セルアは悔しそうにしつつ、そっと両手を挙げる。
ただ、これで諦めるつもりはない。
相手の隙をついて、反撃に転じて、一気に制圧する。
声や音を出すことなく制圧できれば、まだ、問題に発展することはないはずだ。
覚悟を決めて、行動に移そうとしたところで……
「なーんて、冗談よ」
「え?」
突然、陽気な声が聞こえてきた。
思わず素で振り返ると、見たことのある姿が。
最近、学院に赴任してきた、話題の教師。
竜の王女の姉であり、同じく神竜バハムート。
フレイシア・エルトセルクだった。
「せん……せい?」
「こんにちは」
「え? え? なんで……え? こんなところに?」
ありえるはずのない姿が見えて、セルアはおもいきり混乱してしまう。
色々と覚悟を決めていたのだけど、さすがにこれは予想外すぎた。
頭の中がまっしろになってしまい、なんて言えばいいかわからなくなり、うまく言葉を紡ぐことができない。
「あなたがセルア君ね? この私、フレイシア・エルトセルクが手伝いに来てあげたわよ、ふふんっ」
フレイシアはドヤ顔を決めて、胸を張る。
ここはそういう場面ではないのでは?
そんなことを思いつつも、驚きがまだ継続しているため、やはりセルアは言葉が出てこない。
それでも必死に思考を巡らせて、一言だけ絞り出す。
「どうして……?」
「ユスティーナちゃんに頼まれたのよ」
「エルトセルクさんに?」
「そそ。新しい友達が危ない目に遭うかもしれないから、ついていってほしい、って」
「そう、ですか……」
ユスティーナも友達と言ってくれた。
そのことに、セルアは温かい気持ちになる。
ミリフェリアの独善に虐げられて、毎日が辛かった。
味方はセリスだけ、他に誰もいない。
そんな暗い気持ちでいたが、それは間違っていたのだろう。
手を伸ばせば、差し出してくれる人がいるのだ。
そのことがとてもうれしくて、ともすれば涙が出そうになった。
「どうしたの?」
「いえ……なんでもありません。力を貸してもらえること、とても感謝します」
「気にしないでいいわ。かわいい妹の頼みだもの」
「ただ……」と間を挟み、フレイシアは真面目な顔に。
「気をつけた方がいいわ。下手したら、危ない目に遭うかも」
「それは、どういう意味ですか? なにをしているかバレた場合は、確かにまずいことになりますが、危険はないと思いますが……」
「ううん、あるわ。なんていうか……ここ、イヤな感じがするのよね」
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