216話 応えられないけど
「俺のことを諦めてほしい」
「……うん」
「なんて、そんなことは、やっぱり言えない」
「えっ」
ジニーが驚きに目を大きくする。
その瞳は、なんで? と問いかけているかのようだった。
「なんでも、というルールだったとしても、やはり、そんなことは言えないさ」
「でも、そうするのがベストでしょう?」
「そうだな、ベストだと思う」
ここで、ジニーに関連することにケリをつけることができる。
彼女はまっすぐな性格だ。
例え口約束だとしても、それを違えるようなことはせず、しっかりと守るだろう。
でも。
だからこそ、諦めるように、なんてことは口が裂けても言えなかった。
それは、ジニーの心を俺の都合で捻じ曲げるようなことだ。
例え、事前の同意があったとしても、そんなことをしてはいけない。
ともすれば、心を踏みにじる行為。
俺は、それをなによりも嫌うのだから。
かつて、いじめられていたことのある俺がするようなことじゃない。
絶対にしてはならないことだ。
「でも……本当にそれでいいの? 私に諦めてもらうことが、アルト君にとっては、たぶん、一番のはずなのに」
「そうかもしれないが、でも、やっぱりダメだ。それは、自分で自分が許せなくなる」
「……アルト君……」
「それに、そんなことが一番であるなんて、俺は認めたくない。他に、もっといい一番があるはずだと、そう考えたい」
「なんていうか……ふふっ、アルト君らしいわね」
ジニーがくすりと笑う。
さきほどまでは、全てを覚悟したような雰囲気をまとっていて、ひどく落ち着いていた。
でも、今は違う。
いつものジニーとなにも変わらないで、らしく、あった。
「そんなことを言われたら、あたし、諦めないわよ?」
「それでいいさ。ジニーがどうするかは、ジニーが決めることなのだから」
「ずっと、アルト君を好きでいても?」
「いいさ」
「諦めないで、何度もデートに誘っても?」
「いいさ」
「本妻は諦めるから、側室にして♪」
「いや、それは……」
「ちょっと、アルト君。今までの流れなら、そこも、いいさって言うところでしょう?」
「さすがに、そんなことは言えない。というか、そんな流れで承諾されて、ジニーはうれしいのか?」
「んー……半々? ちょっと微妙かな、っていう気持ちはあるだろうけど、でも、側室になれるのなら細かいことはあまり気にしないかな」
「す、すごいな」
「ふふっ、女の子は強くてしたたかなのよ?」
ジニーが得意そうに笑う。
そこで得意そうな顔をするところは、実に彼女らしいと思う。
本格的に調子を取り戻したようだ。
これでもう、諦めるように命令して、なんてことは言わないだろう。
思えば、ジニーはどこかでそれを望んでいたのかもしれない。
俺を困らせるだろうからと、身を引こうとして……
でも、内容が内容だけに簡単に割り切ることができず、迷い、答えを出せずにいたのかもしれない。
それで、俺に委ねた。
でも、そうならないで良かった。
そんなことをすれば、必ず後悔することになるだろうし……
俺が言うのもなんではあるが、どのような形であれ、答えは自分で出した方がいい。
その結果、ジニーが諦めないというのなら、それはそれでいい。
今はユスティーナのことしか考えられないが、もしかしたら、という可能性は消えないだろうから。
「聞いてもいい?」
「なにを?」
「あたしが……あたしとアレクシアがアルト君の側室になれる可能性は、何パーセントくらい?」
「答えに非常に困る質問を……」
「いいじゃない。せっかくだから、教えてよ」
「なにがせっかくなのか、まったく」
「で、どう? どう?」
ジニーが目をキラキラとさせつつ、再び問いかけてくる。
自分の問題で、しかも大事なことのはずなのに楽しんでしまうなんて……やれやれ、と呆れるしかない。
同時に、妙な感心もしてしまう。
このアグレッシブさこそが、ジニーらしさでもある。
彼女の強さ、行動力にはいつも助けられてきた。
そんなジニーをどう思うか?
そして、アレクシアのことをどう思うか?
女性として考えるのならば、とても魅力的という回答に尽きる。
もしもユスティーナと出会っていなければ、間違いなく惹かれていただろう。
ただ……
「正直なことを言うと、今は、1パーセントくらい……としか」
やはり、今はユスティーナのことしか考えられない。
これだけ想ってもらうことができて、ものすごく光栄なことでうれしいのだけど……
それでも、やはり、俺の心の大部分はユスティーナで占められているのだ。
「そっか、よかった」
「えっと……どうして、うれしそうなんだ? 俺は今、けっこうひどいことを言ったと思うのだけど」
「可能性はものすごく低いけど、でも、ゼロパーセントじゃないんでしょう? もしかしたら、っていう可能性はあるんでしょう?」
「それは、まあ」
この先、どのようなことになるか、それは誰にもわからない。
もしかしたら……という可能性もある。
「なら、あたしはその1パーセントに賭けるだけ。ううん。単に運任せにするだけじゃなくて、1パーセントを2パーセント、3パーセント……とか、確率を少しでも上げるための努力をしていくだけよ」
「……強いな、ジニーは」
「知らなかった? 恋する女の子は強いのよ」
ここまできたら、もう降参するしかない。
彼女の想いに応えられるかどうか、それはまた別の話になるが……
止めるようなことはしないし、むしろ、がんばってほしいとすら思えてきてしまう。
「ところで……話を少し前に戻すけど、勝者の権利はどうするの? なにを命令する?」
「それ、まだ続いていたのか?」
「もちろん。あたしに良い方向に話がまとまったからといって、なかったことにしたら、さすがにちょっと……ってなっちゃうじゃない。あたしから持ちかけたことなんだから、どんな命令でもちゃんと実行するわ」
「と、言われてもな……」
「大胆な命令でもいいわよ? その……パンツを見たいとか」
「ごほっ!? な、ないから……そんな命令はしない」
「残念。アルト君を悩殺できると思ったんだけど」
ジニーの行動を止めるつもりはないが、さすがに別の方法を考えてほしい。
「とにかくも、俺が頼みたいことは決まっているよ」
「それは?」
「とある二人を助けるために、力を貸してほしい」
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