215話 賭けの行方は?
試合が終わり、控え室へ移動した。
ちょうどいいタイミングだったらしく、他の選手はいない。
試合が進むにつれて選手の数も絞られてきたため、控え室を利用する人が単純に減っているのだろう。
「おつかれさま、ジニー」
「アルト君こそ、おつかれさま」
互いの健闘を称える。
ジニーは敗北したけれど、しかし、スッキリとした顔をしていた。
もちろん、勝敗は気にしているのだろう。
絶対に勝ちたいと思っていたに違いない。
それでも、全力を出すことができた。
限界を超えた限界を絞り出すことができた。
賭けのことはともかくとして……
納得のいく試合ができたのだろう。
「あーあ、負けちゃったか。やっぱり、アルト君は強いわね」
「そうでもないさ。ジニーも、すごく強くなっていた。一歩間違えれば、負けていたのは俺だったと思う」
「そう? その言葉、嘘じゃない?」
「もちろん」
「……そっか……」
ジニーは、どこかうれしそうに笑う。
「あたし、アルト君に追いつきたい、って思っていたの」
「俺に?」
「アルト君はどんどん成長しているじゃない? それに、たくさんの功績を立てている。最初は同じクラスメイトだったのに、でも、いつの間にかすごい遠いところにいる人みたいに思えて……それで、ちょっと焦ったかな」
「俺は、なにも変わっていないつもりだが……」
「そうね、アルト君の心はなにも変わっていない。でも、それでもやっぱり、外から見ると色々と違うわ」
どこか寂しそうな顔で、ジニーはそう言った。
その顔を見て、なんともいえない痛みが胸に走る。
俺は、自分が自分であることについて、なにも変わっていないと思っていたが……
そうではない、ということか。
外から見なければわからないこともある。
自分のことを全て把握したつもりでも、気づいていないこともあるのだろう。
そもそも。
変わらないものなんてない。
意識していないだけで。
わかりづらいだけで。
俺は、少しずつ変わっていたのだろう。
本来は、そうあることが当たり前なのだ。
なのに、きちんと考えもしないで、その可能性を放棄していたとは……
なかなかに恥ずかしい話だ。
「俺に追いつきたいと思う原動力は……聞いてもいいか?」
ある程度、想像がついたため、ためらいつつ聞いた。
「好きだから」
「……」
「アルト君のことが好きだから、だから、追いつきたいと思ったの。隣に立ちたいと思ったの。たぶん、アルト君ならわかってくれると思うんだけど」
「ああ、そうだな。ものすごく、よくわかるよ」
俺も、ユスティーナの隣に立ちたいと願うようになった。
はるか高みにいる彼女と対等になりたいと思うようになった。
だから、ジニーの気持ちはよくわかる。
「ごめんね。アルト君を困らせるつもりはないんだけど、今のが正直な感想だから」
「わかっているさ。それで責めるつもりなんてない」
「それで、なんだけど……」
ジニーは上目遣いにこちらを見る。
どことなく、お願いをする子供のような印象を受けた。
「賭けはあたしの負け。アルト君の言うことをなんでも聞くわ。諦めろ、と言われたら……うん、諦める」
「それは……アリなのか?」
「アリよ。他の人に迷惑をかけない範囲で、なおかつ、実現可能なこと。その条件からしたら、十分すぎるほどでしょう?」
「確かにそうだが、しかし……」
「大丈夫、覚悟はしているから。普通、勝った時だけじゃなくて、負けた時のことも考えるでしょう? だから……平気」
「……」
俺の想い人は、ユスティーナであるとハッキリしている。
そのことについて自覚もした。
ならば、やるべきことは決まっている。
ユスティーナを一番に考えるなら、ジニーには、俺のことを諦めてもらう。
それが最良の選択肢だ。
俺にとっても、ジニーにとっても、そうなるはずだ。
「俺は……」
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